横山健 Special Interview -前編-

9月 3, 2021


デカイし扱いづらい。それが僕にとっては余裕のある人生を感じさせるんです

 

1990〜2000年代初頭のメロディックパンクムーブメントを牽引したHi-STANDARDのギター&コーラスであり、Ken Yokoyamaのギター&ボーカルとしてシーンの第一線で活躍し続ける横山健。2015年、グレッチから日本人初のシグネイチャーモデル「Kenny Falcon」が発売され、その後はG6136T-KFJR-FSR Kenny Falcon Jr.、G6134T-KWP KDFSR Kenny Wild Penguinと、これまでに3本ものセンセーショナルなモデルを発表してきた横山健にスペシャルインタビューを敢行。前編では、グレッチとの出会いから、各シグネイチャーモデルにまつわるこだわりを中心に話を聞いた。

 

アメリカのティキ文化とか、古いリゾートっぽい感じとすごく親和性が高い気がする

 

― グレッチとの出会いは?

横山健(以下:横山) 僕がグレッチを弾き始めたのは2014年です。僕はそれまではずっとソリッドボディのギターを弾いてました。一生箱モノには手を出さないだろうと思っていたんですけど、なぜか興味を持ち始めまして。最初は他のメーカーのギターを弾いていたのですが、すごくハマっちゃったんです。で、箱モノと言えばもうひとつはグレッチで、グレッチとはどんなものだろう?と思ってゲットしたのが2014年です。

 

― 最初に購入したグレッチは?

横山 オレンジ色のG6120です。定番かなと思って。

 

― 実際に弾いてみてどうでしたか?

横山 すごく良かったんですよ。フルアコは初めてだったんですね。家での生弾きや、アンプにつながずに弾いている時の音量の豊かさがすごく良くて、まずは家弾きでハマりました。

 

― グレッチの生音は、何とも言えない素敵な音ですよね。

横山 そうですね。まさにエレキとアコースティックの中間という感じ。それまではあまり家でギターは弾かなかったんですよ。そんなに面白くないんですよね、家でソリッドギターを弾いていても。家ではアンプに通さない派なので、家弾きがそんなに楽しくなかったのですが、箱モノと出会ってからめちゃくちゃ家弾きが楽しくなっちゃって。

 

― G6120からどういうグレッチの旅が始まったんですか?

横山 それから、グレッチ独特の美学に触れ始めるわけですよ。例えば、G6120のヘッドに入っているホースシュー(馬蹄)。そういう古き良きアメリカ文化みたいなものが俄然光り始めるわけです。日本で生活していても、そういうものってロックをやっていたら何かと接する機会があるから体の中に溜まっていたんです。それが一気に噴出して、けっこうテンパっちゃいました(笑)。こんなに盛り上がっちゃうんだ!というくらい盛り上がって、それだけグレッチに求心力がある気がしますね。例えば、ホットロッド好きにはグレッチ好きが多いですが、すごく頷けますね。僕はそれほど車に興味はないけれど、僕の中ではアメリカのティキ文化とか古いリゾートっぽい感じとすごく親和性が高い気がします。

 

― なるほど。

横山 とにかく見た目がキレイなギターだと思ったんです。装飾美というか、重厚なパーツ類であったり、ひとつひとつに余裕があるんです。悪く言えば、今の音楽に対しては不経済。デカイし扱いづらいし。だけど、それが僕にとっては余裕のある人生を感じさせるんです。余裕があって家に椰子の木を植えちゃうみたいな、そういうこととすごく近い気がして。

 

― シンプルでコンパクトで合理的なものが好きな日本人には発想できない感じですよね。

横山 ええ。機能面も音もそうなっていきますよね。それと真逆なものにやられちゃいましたね。

 

― グレッチからシグネイチャーモデルが3本発売されていますが、作った順番にディテールを教えてください。

横山 最初に作ったのがキャデラックグリーンのG6136T-KF FSR “KENNY FALCON”。これはいわゆるホワイトファルコンの色を、キャデラックグリーンに変えただけなんです。ただ、リアのピックアップに強いものを載せています。ちなみにキャデラックグリーンは、グレッチのCountry Clubっていうギターの色なんです。

 

― キャデラックグリーンはお気に入り?

横山 お気に入りですね。理由はないけど、自分のラッキーカラーはグリーンだと思っているんです。だけど、Tシャツとかがグリーンだと似合わないんですよ(笑)。発売した時ファルコンは定番の色しかなかったので、“これ何?”って感じで注目を引いたと思いますね。

 

― リアのピックアップを替えたのは?

横山 現行のピックアップだと、出力が弱いので歪まないんですよ。僕はもともと“アウトな使い方”をするのが好きなんです。例えば服装で言うと、革ジャンに短パンって基本アウトじゃないですか。そういうのをサラッとやりたいんです。で、グレッチを歪ませる人ってAC/DCのマルコム・ヤングさんくらいしかいなかったと思います。それも、そこまで現代的な歪みではないわけです。これを絶対に自分たちの音楽に取り入れたい、というモードが発令したんですね。

 

― 面白い試みですね。グレッチって低い圧力でキラキラしながら温かい音が特徴なのに、あえて歪ませる前提にしたと。

横山 そうなんです。たぶん、古き良きグレッチファン、オールドグレッチファンは未だに僕に抵抗があると思いますね。グレッチじゃなくていいじゃんって。それこそ、Telecasterにハムバッカーを載せるなら別の楽器でいいわけで、“グレッチの世界を壊さないでくれよ”って感じだと思うんです。でも僕は壊したいんです。その古いスタイルをリスペクトしつつ、まさに守破離ですね。最初にG6120を買った時は、これはバンドには持ち込めないかもと思ったんですけど、弾いているうちに何とか持ち込む方法を考えちゃったんです。それで、出力の高いピックアップを載せるところから始まりました。普通、出力の高いピックアップを載せると、Fホールが空いているから音がハウるんです。まぁ、僕はどのギターを弾いてもハウるんですけど(笑)。実際にスタジオで鳴らしてみて、ハウりが良くて“イケるじゃん”って思ったんです。

 

― 実際にどういう現場で使っていますか?

横山 Ken YokoyamaとHi-STANDARDの両方で使っています。“ピー”っていうハウりじゃなくて、胴鳴りのハウりの時があるんです。ステージでそれが来たら、“俺、いま世界一カッコいい”って思います。今主流の音楽ってギターミュージックじゃないから、色付け役としてコントロールが利くギターが望ましいと思うんですけど、僕はギターに振り回されるのが好きで。ライヴが終わったあと、“今日ひでぇ音だったな”っていうのも意外と好きだったりするんです。

 

Ken Yokoyama Special Interview A

自分たちの作った歴史に、首を絞められる必要はないと思うんです

 

― 2本目は?

横山 G6136T-KFJR-FSR Kenny Falcon Jr.です。KENNY FALCONが17インチ幅でネックもロングスケールですが、これは16インチ幅でレギュラースケールです。やっぱり操作性がグッと良いんですよ。ファルコンの装飾を持ちながらも、6120を弾いている感覚に近いです。

 

― そもそもファルコンで16インチってないんですよね?

横山 そうなんですよね。ただ、海外ではちょこちょこあるんです。オーストラリアのバンド、リヴィング・エンドのクリス・チェニーがオーストラリア限定でシグネイチャーを出した時に、初めて16インチのホワイトファルコンでシグネイチャーモデルを作ったんじゃないかと思います。

 

― じゃあ健さんが世界で2人目?

横山 そうだと思います。もちろん、ちゃんと北米限定で売っていたオーシャンターコイズブルーの16インチのFALCON Jr.を買って、16インチのファルコンの操作性も充分に検証した上で作ってもらいました。

 

― では、それをベースにしたんですね?

横山 そうです。パーツも特別なものを搭載していないです。16インチのファルコンがあるだけで、充分にインパクトがあるので。ただ色だけオリジナルカラーを作ったんです。だから名前を付けなきゃいけなくて、アーリーサマーグリーンと名付けました。見た目で言うと、ヘッドのロゴデザインを変えてもらったのと、“フェザーインレイ”という鳥の羽とか蓮の花をモチーフにしたインレイが入っているんです。あと、“ケニーファルコンジュニア”という、アメリカのリゾート感のあるデザインロゴがヘッド裏に入っています。

 

― そして3本目は。

横山 G6134T-KWP KDFSR Kenny Wild Penguinというギターです。これが面白いギターで、ペンギンって“幻のギター”と言われていたんですよ。WHITE FALCONが初登場した時に、ペンギンもグレッチのカタログに載っているんですね。ファルコンは定着したんですけど、その時のペンギンは数本しか作られていなくて。この世にあるのか?ないのか?みたいな。

 

― ペンギンの特徴は?

横山 装飾はファルコンをなぞっています。ヘッドの形状とフレームのスパークルバインディングですね。あと、アームレストが付いているのが特徴です。アームレストが付いていないペンギンもあるけれど、ほとんどに付いています。

 

― 幻と言われているだけに、何がオリジナルの音なのかもよくわからないですよね?

横山 そこがポイントなんです。でも、音はどうでも良かった。悪い意味じゃなくて、音じゃなかったんですよね。現在、ペンギンは現行品でありますけど、長らく幻のギターと言われていたペンギンを自分の名前を冠して出せる。おそらくシグネイチャーモデルの中でも、ペンギンを作った人はいないと思うので世界初じゃないかと。で、オリジナルにはピックガードにペンギンのロゴが入っているけれど、そこにモヒカンをつけたら…と提案したら通っちゃって(笑)。

 

― めちゃくちゃカワイイです! レコーディングでも弾いていますか?

横山 これはハイスタでも使いましたよ。アルバム『The Gift』で使いました。

 

― 音はどんな感じですか?

横山 音はいいですよ(笑) それよりチャレンジ自慢を聞いて下さい(笑) グレッチのギターって、ブリッジサドルが木台の上に乗っているのですが、その木台をこのペンギンは取っちゃったんですよ。取るとネックと高さの釣り合いが取れなくなって、グレッチギターの特色でもあったネックが浮いている部分もくっつけちゃったんです。木台を取ったのは、ロングサスティンを得られるんじゃないかという狙いもあるんです。だから、よりLes Paulタイプに近い操作性を持つことになりました。実際に弾いてみると、KENNY FALCONの場合のボディと弦の距離って、意外と遠くて弾きづらかったりするんです。でも、僕のペンギンはモダンなギターとそれほど変わらないんです。

 

― かなりの革命ですね。

横山 そうなんです。でも許可が出たということは、グレッチもそういう歪んだサウンドに対応するプレイヤーやギターアイディアを欲していたと思うんですよね。自分で言うのもヘンですけど、グレッチにかわいがられたんですよ。面白いヤツだって。

 

― グレッチは80年代にブライアン・セッツァーがイメージを変えましたが、2000年代に健さんがグレッチに新しい風を吹かせていますね。

横山 そうなったらいいなと思うんですけど。グレッチには黄金期が2つあったんです。最初はエディ・コクランで、セッツァーさんがセカンドゴールデンエイジなんです。で、やっぱり第3次黄金期がほしいと思うんですよ。だから僕、この方向があってもいいかなと思いますね。

 

― しかも、健さんのこのルックスでグレッチを持っているのがカッコいい。

横山 そうなんですよ!って自分でも言ってもおかしいけど。やっぱりグレッチを持つ以上、リーゼントにしないといけないとか、ロカビリーを弾かなきゃいけないとか、そういうイメージってあるじゃないですか。それはそれで長い時間をかけて出来上がった世界観だからリスペクトすべきですけど、必ずしもそうじゃなくてもいいんですよね。自分たちの作った歴史に、首を絞められる必要はないと思うんです。

 

後編はこちら

 


 

横山健

1969年、東京都出身。1991年、Hi-STANDARDを結成。1999年にレーベル「PIZZA OF DEATH RECORDS」を設立、社長を務める。Hi-STANDARD活動休止後の2004年には、アルバム『The Cost Of My Freedom』でKen Yokoyamaとしてバンド活動を開始。その後2005年に『Nothin’ But Sausage』、2007年に『Third Time’s A Charm』をリリース。2008年1月13日、日本武道館で行われたライヴ〈DEAD AT BUDOKAN〉のチケットは即日完売。2010年に『FOUR』をリリース。2011年3月11日の震災を期に、Ken Bandを率いて東北でフリーライヴ等を積極的に敢行。9月18日にロック・フェスHi-STANDARD主催〈AIR JAM 2011〉を横浜スタジアムで開催。11年 ぶりにHi-STANDARDの活動を再開させ、2012年には横浜での収益を基に念願の東北で〈AIRJAM 2012〉を開催。11月にはソロとして5枚目のアルバム『Best Wishes』をリリース。

2015年、Gretsch Guitarの132年の歴史において、初の日本人ギタリストのシグネイチャーモデル「Kenny Falcon」が発売。2016 年 3月、自身2度目となる日本武道館公演〈Dead At Budokan Returns〉を開催。2021年5月26日には、Ken Yokoyama名義で7枚目となるアルバム『4Wheels 9Lives』をリリース。自身の主宰するレーベル『PIZZA OF DEATH RECORDS』でも精力的に活動し、これまでにWANIMA、HAWAIIAN6、DRADNATS、GARLICBOYS、MEANING、SLANG、SAND、SNUFF等の国内外のバンドを輩出。音楽シーンにおいて常に第一線で活躍している。

https://kenyokoyama.com