
井草聖二 SPECIAL INTERVIEW -前編-
6月 12, 2025
グレッチはギターを始めた頃から憧れのブランド
2009年、アコースティックギタリストの登竜門〈FINGER PICKING DAY2009〉で最優秀賞とオリジナルアレンジ賞を受賞。牧師家庭に生まれ、幼少期より讃美歌やゴスペルに親しむなど豊かな音楽的感性をバックボーンに、芸術的かつ情熱的なフィンガーピッキングで日本のみならず世界を股にかけて活躍する井草聖二。メイン楽器はアコースティックギターだが、ギターを始めた頃からグレッチは憧れの存在だったという。インタビュー前編では、ギターを始めた原点を振り返りつつ、自身が所有する2本のグレッチについて、そして今回試奏したBroadkaster Jr. LX Center Block with String-Thru Bigsby and Gold Hardwareのインプレッションを聞いた。
― 音楽やギターを始めたきっかけを教えてください。
井草聖二(以下:井草) 幼稚園から小学5年生までピアノを習っていたんですが、それは習い事としてだったのであまり主体的ではなかったんです。同時に実家が教会で、小さい頃からワーシップやゴスペルを聴いて育ちました。自然と教会の中でワーシップのバンドを組むことになって、小学5年生の時にドラムを始めたのが自分から音楽に向かったきっかけでしたね。
― ドラムをやり始めてすぐに教会で演奏を?
井草 そうですね。全然叩けていないのに(笑)。
― 日本人にとって羨ましい環境です。
井草 音楽家になって振り返ってみると、とても恵まれた環境だったなと感じます。身近に楽器があり、海外の一流のゴスペル・ミュージシャンがコンサートやセミナーに来てくれる機会があったりして、すごく刺激になりました。
― ギターに転身したのは?
井草 15歳の時です。ある日、教会に誰かがしまい忘れたギターが転がっていて、それを何気なく手にとって弾いてみたのがきっかけでした。アコギの音色の美しさと、それ以上にギターの形のカッコ良さに惹かれました。
― 15歳でギターを持つようになり、どんな練習を始めたんですか?
井草 最初は家にあったワーシップソングのコードを見ながらCやGコードを弾きつつ、教会で音楽をやっている人たちが教えてくれたので基本的なローコードばかり弾いていました。ギターを始めて3ヶ月ぐらいしてから、フィンガースタイル、いわゆる指弾きに興味を持つようになって、指弾きするならクラシックギターをやったほうがいいと思いまして、近くのクラシックギター教室で習い始めました。
― ワーシップ音楽から始まり、そこからどのような展開を?
井草 中学高校の頃はヒップホップが大好きで、Dragon AshやRIP SLYMEなどをよく聴いていました。その頃の日本のヒップホップはアコギのアルペジオが印象的な曲が多くて、ループもののフレーズをめちゃくちゃコピーしていたんです。結果、ピックよりも指弾きのフレーズのほうが弾きやすいなと。ドラムでよく叩いていた90年代のゴスペルも、ヒップホップのブーンバップのリズムテイストだったりするので、自分の中でヒップホップとアコギのフレーズがリンクして、そういうのばかり弾いていましたね。
― プロになろうと思ったのはいつですか?
井草 高校はパソコンの専門学校でCGデザインをやっていたんですけど、ギターの3DCGばかり作るようになって(笑) 。でもやっぱりギターを弾くのが楽しいなと思って卒業と同時に音楽の専門学校へ行ってみようと。
― ギターを持ってから3年足らずでプロになろうと。そこまで魅了されたギターの魅力は?
井草 最初は形とか憧れから入ったので、練習というよりもひたすらゲームをしている感覚でした。眺めても楽しいし、弾いても楽しい。高校生の時は、毎日10時間ぐらい弾いていたと思います。
― プロデビューはどういう形で?
井草 18歳で音楽専門学校に行き始めた頃から、いわゆる事務所の新人発掘・育成グループに入ってオーディションを受けたりしたんですけれども、ギターインストということもあって最終選考で落とされることが続いて。で、20歳の時にアコギのフィンガーピッキングコンテストで優勝したことがきっかけで、ちゃんと活動していこうと切り替えました。高校生の頃からの憧れのコンテストだったので、3年ぐらいチャレンジしてようやくって感じでした。
― コンテスト用に特別な訓練をしたんですか?
井草 そうですね。オリジナル曲とカバー曲の2曲を演奏するという課題でしたが、すべてのBPMで弾けるまで練習しました。BPM30から240ぐらいまで(笑)。
― すごい! 逆に言うとそれぐらいしないと優勝できない?
井草 そうですね。プロも多く参加するコンテストだったので、そのくらいしなければ入賞できないと思いその2曲だけに集中して練習しましたね。
― 話は変わりますが、グレッチとの出会いは?
井草 グレッチはギターを始めた頃からの憧れのブランドでした。特にWhite Falconが大好きで。ただ、実際に買ったのはコロナ禍になってからです。普段、アコギを演奏する機会が多いので、なかなか現場で使うことはないのかなと思いつつ、コロナ禍でYouTubeに力を入れていた時期があって。最初はコレクション用として、“動画で数回弾いてあとは飾っておこう”みたいなテンションで買ったんですけど、いざ買ってみたら、音がめちゃくちゃキレイでびっくりしました。チェット・アトキンスとかドイル・ダイクスをよく聴いていたので、カントリーのクリーンな音は知っていたけど、弾いてみて実感したというか。それから動画以外、音源でも使うようになりました。
― 最初は見た目に惚れて?
井草 そうですね、最初は完全に見た目です。
― 誰かアーティストが持っていたんですか?
井草 最初に憧れたのは『BECK』という漫画で見て。ダブルカッタウェイのWhite Falconがカッコいいなって。アーティストで言うと、ヒルソング・ユナイテッドのマイケル“ガイ”チスレットがずっと使っていて、その姿にもすごく憧れましたね。
― ワーシップでもグレッチを持つ人は多いんですか?
井草 特にアメリカやオーストラリアのワーシップ界では多いです。ワーシップソングって、ギターにディレイやリバーブをかなり深くかけてストリングスのような広がりを出すんです。そのためには、グレッチぐらい透明感のある音色のピックアップじゃないと埋もれてしまうので選んでいるのかなと思います。
― 見た目から入って弾いてみたら思った以上に良かったと。
井草 はい。ちょっと使って終わろうかと思ったのですが、White Falconを買って最初に投稿した『アンプをつながずにマイクを立てて、アコギみたいに録った動画』が思った以上に反響が大きくて。それから動画にもどんどん登場するようになりました。
― マイクで拾おうと思ったのは何か狙いがあったんですか?
井草 17インチボディのWhite Falconを買ったんですけど、17インチ幅って持ったことがなくて、いざジャーン!って弾いてたらめちゃくちゃアコギっぽい響きがしたんです。“エレキ弦でここまで鳴るんだ”とびっくりして、コンデンサーマイクを立てたらアコギみたいにいけるんじゃないかと。実際にアーチドトップというのもあって、アコギ以上にハリがある音というか弦の音が直で出る感じがあるなと。また違った表現として音源でも使えるなと感じました。
― Black Falconはどういう理由でご購入いただいたのですか?
井草 White Falconから一気にグレッチに興味を持ち出して、次はミディアムスケールのフルアコが欲しくなった時に、Black Falconも昔からずっと憧れがあって。ただ、しばらくBlack Falconは現行品のラインナップから消えていて、ずっと中古で探していたタイミングで急にこれが出てきたので速攻で買いに行きました。それが去年ですね。しかも16インチ幅で、ミディアムスケールというのが自分の中でドンピシャで。White Falconはエア感がたっぷりですけど、Black Falconはちょっとだけソリッドなニュアンスもあって距離が近い音というか、バンドサウンドに合う印象がありましたね。
― 歪みはどうですか?
井草 歪みの乗りも、独特ですね。箱ものって歪ませると逆に音がひっこんでしまうような時があるんですけど、このクリスピーな音って歪ませると前に出る印象でそこがいいですよね。
― 今回試奏いただいたのがBroadkaster Jr. LX Center Block with String-Thru Bigsby and Gold Hardwareです。弾いてみていかがですか?
井草 かなりソリッド寄りというか、ピックアップのパワーがすごくて特にミドルに力強い感じがあります。今までのグレッチとは方向性が違うなと感じました。図太い音が出てくれるので、リードとかメロディを弾くのに最高だなって。ピックで強めのピッキングで弾いてもいい感じになりますね。
― 見た目はいかがですか?
井草 ボディカラーがとても印象的ですね。照明が当たると派手な印象なんですけど、落ち着いたところではシックな雰囲気になるんです。この二つの方向性を合わせ持つカラーって今まで見たことがないので気に入りました。
― 弾きやすさはどうですか?
井草 今のグレッチギターに共通しているんですけど、ロックペグとビグスビーの相性が良くて。チューニングを一発決めたらほとんど狂わないです。この14インチのボディはノブ系が一ヶ所にかたまっているので、ライヴではすごく操作しやすいだろうなと感じました。
― どういう人におすすめですか?
井草 トラディショナルなハムバッカーを好きな方にもはまるかなと思います。グレッチのクリスピーな音よりも、もうちょっとミドルにパンチがあるギターが好きな方は、グレッチの透明感のあるサウンドを残しつつハムバッカーの太い音が出せるのでおすすめだと思います。
(左)Broadkaster Jr. LX Center Block with String-Thru Bigsby and Gold Hardware
(右)Black Falcon(本人私物)
井草聖二
牧師家庭に生まれ幼少より讃美歌、ゴスペルに親しむ。11歳でドラム、15歳よりギターを始める。2009年、〈FINGER PICKING DAY2009〉で最優秀賞、オリジナルアレンジ賞を受賞。同年、トミー・エマニュエルのジャパンツアーのオープニングアクトを務める。2010年、アメリカ・カンザス州で開催された世界的なギターコンテスト〈39th Walnut Valley Festival〉に日本代表として出場しTop5に選出。2015年から韓国、中国などアジアでの演奏活動を開始し、2019年には全15都市を回る中国ツアーを開催。2022年、全国の楽器店員が「世に広めたいイチ押しプレイヤー」を選ぶ『楽器店大賞』にてギタリスト部門の大賞受賞。これまで10枚のアルバムをリリースし、その緻密なフィンガーピッキング奏法の楽曲は海外を中心に話題となりYouTubeチャンネルの登録者は116万人、Instagramのフォロワーは68万人を突破。アコースティックギター・マガジン「プレイヤー&識者が選ぶ最高のソロ・ギタリスト100」31位にランクイン(読者アンケートでは4位にランクイン)。