井草聖二 SPECIAL INTERVIEW -後編-

6月 19, 2025


White Falconは憧れだけで買っちゃいました(笑)

 

2009年、アコースティックギタリストの登竜門〈FINGER PICKING DAY2009〉で最優秀賞とオリジナルアレンジ賞を受賞。​牧師家庭に生まれ、幼少期より讃美歌やゴスペルに親しむなど豊かな音楽的感性をバックボーンに、芸術的かつ情熱的なフィンガーピッキングで日本のみならず世界を股にかけて活躍する井草聖二。メイン楽器はアコースティックギターだが、ギターを始めた頃からグレッチは憧れの存在だったという。インタビュー後編では、グレッチのイメージのほか、ギタリストとしての今後の活動や野望などを聞いた。

 

ギターを始めたての頃からグレッチに憧れていたということですが、グレッチってどんなイメージでしたか?

井草聖二(以下:井草) 自分の中ではブライアン・セッツァーとかロカビリーの方向ではなくて、どちらかと言うとオールドカントリーな、サムピックを使って弾くイメージがすごく強かったです。ローファイな音源を聴いてきたので、ちょっと揺れ感があるクリーントーンのイメージが強かったです。同時にヒルソングのなどのワーシップCDで聴いた音源ではバンドの中で透明感のある美しいアルペジオの音のイメージもありました。

 

 

クリーントーン界の王様みたいな?

井草 そうですね。クリーンで弾くならグレッチだ!っていうイメージです(笑)。普段アコギを弾いている人も、最初のエレキにとてもいいんじゃないかなと思います。

 

いいですね。大きなアメ車に乗りたい!みたいなやんちゃ心が、ある意味でグレッチのシンボルになっていますが、音でグレッチを選んでくれるのはありがたいです。

井草 特にサムピックを使う人にとっては、低音をミュートしながら弾くギャロッピング奏法でも

芯がはっきりした低音を出すことができ、ピックアップの高さがかなりあるのでサムピックで弾いてもボディにピックが当たらないのでストレスなく演奏できます。

 

ギターを選ぶ時に一番大事にしているものは何ですか?

井草 僕自身、リバーブとかディレイを深くかけるので、特にエレキギターではクリーントーンの質感が大事で。リバーブとかディレイをかけた時に、どういった音がするのかを重視して選んでいる部分は多いですね。

 

もう試奏しまくるんですか?

井草 そうですね。ただ、White Falconに関してはネットでポチりました(笑)。もう憧れだけで買っちゃって(笑)。

 

(笑)。今は一日どれぐらいギターを弾くんですか?

井草 一日中弾いていると思います。基礎練習などもしますが、レコーディングや作曲など制作で弾いている時間がほとんどです。

 

ギターを弾く以外の趣味は?

井草 デジマートでギターを探すことです(笑)。新商品ギターはすぐにチェックしますね。ライヴで演奏する楽しみと同じくらい家でギターを眺めたり弾くのが楽しいですね。

 

本当にギターが好きなんですね。

井草 そうですね。そういう意味ではプロ意識みたいなものがないです(笑)。

 

ギタリストとしての夢や野望は?

井草 フィンガースタイルの音楽を聴き始めた頃、動画の中のギタリストに憧れていたので、自分の中での表現もやっぱり動画での表現に憧れて。だから、そこを今後も続けていきたい気持ちがあります。ギタリストのライブを初めて見に行った時にステージが遠くて“ギターちっちゃ!見えない!”と思ったので、やっぱり動画の中での表現が好きですね。

 

でも、こんなにギターを弾けたら、大勢の人の前で弾く爽快感が癖になりそうですが。

井草 あまり大きな会場だとお客さんと距離を感じてしまうことがあり、ギタリストとして一番やりがいを感じるのは、ステージと客席が近く演奏している手元を近くで見てもらえてギターの生音も届くくらいの距離感が好きですね。

 

インストゥルメンタルに関してはどう考えていますか? やはり言葉があったほうが表現できることは増えると思うのですが。

井草 そうですね。実際に自分が活動し始めた頃はその壁が大きくて、特に日本だとギターインストでソロとなると活動の幅が限られるので葛藤がありました。ネットで発信し始めてからは言葉がないぶん海外で広がるペースが早くて、様々な国の人たちが自分の曲をカヴァーしたりライヴで弾いてくれていたりすると、“やっぱりこれをやってきて良かったな”って感じました。

 

確かに歌だと言葉の限界があるので海外までは広がらないですからね。じゃあこのスタイルを貫徹していきたいと?

井草 ずっと今のスタイルのままいきたいですね。

 

今年に入って海外ツアーもやっていますが、活動は日本に限らず?

井草 そうですね。いろいろと呼んでもらえるのはギターインストという共通言語があるからだと思います。

 

インストでも、オーディエンスのリアクションは国によって違いますか?

井草 全然違いますね。日本だと聴き方としてはクラシックっぽくなるんです。場所もクラシックのホールだったりするので、演奏中は静かに聴いて、終わったら一気に拍手が起こるみたいな。

 

ジャケット着用みたいな?

井草 そうですね(笑)。張り詰めた空気の中で弾くのも大好きですが、中国などでは雰囲気が全然違くて。演奏中もロックコンサートのような盛り上がりで、文化の違いはかなり衝撃でした。オールスタンディングのライヴハウスでやったり、照明もバンバンあるようなところだったりするので。そのような会場ではパフォーマンスモードに切り替えて、多少演奏はラフになってもお客さんの前に行って煽ったりというアクションも大切にしています。

 

面白いです。ギター1本と言えども全然違うんですね。まだまだギターインストの可能性はある?

井草 大きくあると思います。国によって、エンタメとしてのギターライヴもあれば、演奏を丁寧に届けるコンサートもあり。ライヴを通して違う経験を積めるのはいいですね。

 

Igusa D

 

今年はもう海外には行かないんですか?

井草 7月にまた中国へ1ヶ月ほどツアーに行きます。まだ調整中ですが韓国やシンガポールにも行くかもしれません。

 

ヨーロッパには行かないんですか?

井草 ヨーロッパもお誘いいただくんですけれども、スケジュールがなかなか合わず、無理すれば行けるのですが、YouTubeなどの動画の投稿頻度が減ってしまうので…

 

えっ!? それで断るんですか?

井草 そうですね。今は制作のほうが…っていう感じで。もちろん、海外のアーティストとコラボしたい気持ちはあるのですが、最近はYouTubeやインスタグラムで海外の方とコラボする機会が増えてきて。“これは自宅でもできるな”っていうので、ますます(笑)。無理せずタイミングが合えば行ってみたいですね。

 

テクノロジーの進化ですよね。テクノロジーの進化で言うと、楽器を弾かなくても音は出せるわけですが、そのあたりはどう考えますか?

井草 そうですね。今は打ち込みでもとても生々しいギター音源があったり、AIで作られた曲のギターの音も驚くほどリアルですが、僕自身はそこまでそこに関心がなくて。例えばAIによる作曲がどんどん発達しても、作曲やギターを弾くこと自体が趣味なので。その一番楽しい部分をAIに任せてしまうのは、ゲームを全部オートモードでクリアしてもらって、自分は画面を見ているだけ…みたいな感覚に近いんですよね。なので、これまでと変わらずギターで曲を作り続けていくと思います。

 

最後に、これからギターを始めようとしている人へアドバイスやメッセージをお願いします。

井草 まずは、とにかく手に取ってみるのがいいかなと思いますね。で、弾けようが弾けまいがギターが部屋にあるだけですごく生活が豊かになると思うので、生活を彩るアイテムとして一度身近にギターを置いてもらうといいんじゃないかなと思います。

 

Igusa E

(左)Broadkaster Jr. LX Center Block with String-Thru Bigsby and Gold Hardware

(右)Black Falcon(本人私物)

 


 

井草聖二

​牧師家庭に生まれ幼少より讃美歌、ゴスペルに親しむ。11歳でドラム、15歳よりギターを始める。2009年、〈FINGER PICKING DAY2009〉で最優秀賞、オリジナルアレンジ賞を受賞。同年、トミー・エマニュエルのジャパンツアーのオープニングアクトを務める。2010年、アメリカ・カンザス州で開催された世界的なギターコンテスト〈39th Walnut Valley Festival〉に日本代表として出場しTop5に選出。2015年から韓国、中国などアジアでの演奏活動を開始し、2019年には全15都市を回る中国ツアーを開催。2022年、全国の楽器店員が「世に広めたいイチ押しプレイヤー」を選ぶ『楽器店大賞』にてギタリスト部門の大賞受賞。これまで10枚のアルバムをリリースし、その緻密なフィンガーピッキング奏法の楽曲は海外を中心に話題となりYouTubeチャンネルの登録者は116万人、Instagramのフォロワーは68万人を突破。アコースティックギター・マガジン「プレイヤー&識者が選ぶ最高のソロ・ギタリスト100」31位にランクイン(読者アンケートでは4位にランクイン)。

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