
小川幸慈(クリープハイプ) SPECIAL INTERVIEW -後編-
4月 16, 2025
最近はいろんなアプローチでフレーズを導き出しています。
ある意味、作曲に近い感覚なのかもしれない
昨年リリースしたアルバム『こんなところに居たのかやっと見つけたよ』の制作を機にグレッチと出会い、White Falconや6120などを実際にライヴでも使いながら、その魅力を少しずつ実感しているクリープハイプの小川幸慈。インタビュー後編では、彼がどのようにして独自のギターフレーズを生み出しているのか、その音楽的ルーツから、全国ツアーを通して感じている手応え、そして今後に向けたグレッチとの関わりまでをじっくりと語ってもらった。自身のプレイスタイルやバンドとの関係性を通じて見えてくる、そんなギタリスト小川幸慈の現在地に迫る。
─ 小川さんのギターフレーズって、結構動きがある印象がありますよね。そのあたりの影響って、どこから来ているのでしょう?
小川幸慈(以下:小川) 日本のバンドだと、SPARTA LOCALSみたいな、ニューウェーブっぽいサウンドにすごく惹かれました。ちょっと尖っていて、鋭さのある音が好きだったんですよね。そこから自然と洋楽も聴くようになって、いろいろとバイト先の先輩に教えてもらったり、あとジョン・フルシアンテの影響も大きいです。ちょうど高校を卒業するくらいの時期が、いわゆるロックンロールリバイバルのタイミングで、ザ・ホワイト・ストライプス、ザ・ストロークス、ザ・リバティーンズ、フランツ・フェルディナンド…そういうバンドが一気に出てきた時代でした。
その中でも特に夢中になったのが、ザ・コーラル。たしかHMVかどこかで“The Doors meets The Beatles”みたいなキャッチコピーで紹介されていて、“何それ!”と思って試聴してみたら、混沌としているのだけど、アイディアがぎゅっと詰まっていて。その、やりたいことがたくさん詰まっている感じがすごく好きで、そこから一気にハマりました。僕自身、テクニカルなフレーズというよりも、“耳に残るワンフレーズ”みたいなものに惹かれるタイプなのだと思います。
─ ギターのフレーズはどんな時に思いつくのですか?
小川 最初の頃は、スタジオで何度も演奏する中で、“今の感じいいね”と尾崎(世界観)に言われたものを拾っていくことが多かったですね。でも最近は、自宅でDTMを使ってアレンジすることが増えました。尾崎が弾き語りのような状態で持ってきた原曲に、自分なりのアイデアを加えていく感じです。長く活動していると、“この雰囲気なら、こういうアレンジが合うな”と自然とパターンが見えてくるんですけど、そこをあえて壊してみたり、逆に寄せてみたり、いろんな方向を試しています。最近はそうしたアイディアをメンバーに投げて、“ちょっと違うかな?”“これいいじゃん”ってやりとりしながら詰めていくことが多いですね。
鼻歌から始めたり、キーボードを弾いてみたり、シンセの音色からイメージを膨らませて、それをギターに置き換えることもあります。ピアノは弾けないのですが、“この音に行きたい”という感覚が先にあって、それを手探りで見つけていく。最近はそんな風に、いろんなアプローチでフレーズを導き出しています。ある意味、作曲に近い感覚なのかもしれないですね。
─ 今は全国ツアー〈君は一人だけど 俺も一人だよって〉の真っ最中ですよね?
小川 はい。バンド史上最大規模のツアーということで、アルバム『こんなところに居たのかやっと見つけたよ』の曲だけでなく、昔の曲も交えながらバランスよくライヴが組めていて、手応えを感じながら回れている実感があります。これまではツアーの合間に制作が入ったりして、ライヴモードと制作モードを行き来していたんですけど、今回は平日に制作が入っていないので、週末に2本ライヴをやって、翌週もまたライヴ、という流れの中で、ずっとライヴのモードを保ったまま臨めているのがすごくありがたいです。
─ セットリストはどのように考えたのですか?
小川 その前にあった15周年のKアリーナ横浜公演〈2024年11月16日〉では、来てくれるファンの方が喜んでくれるように、セットリストをじっくり考えました。最近は演奏できていなかった曲、たとえば「憂、燦々」みたいな楽曲も盛り込みながら、これまでの歩みを一度見せるような感覚で臨みました。それに対し、今回はもちろんアルバムの楽曲を中心に今やりたい曲をセットリストに組んでいます。
─ ツアーで実際に演奏してみて、やっていく中で変化や成長を感じた部分はありますか?
小川 例えば“この曲って、こんなところで盛り上がるんだ”とか、想定していなかった反応をもらうことがあって驚くこともありました。逆に、“この曲はお客さんがすごくグッと聴き入ってくれているな”と感じる瞬間もあって。セットリストの前後の流れも関係しているとは思うんですけど、“あ、ちゃんと届いているんだな”と実感できるんです。そういうリアクションをステージから肌で感じられると、“やっぱり、このアルバムはいい作品になったな”とあらためて思いますね。
─ 5月からはアリーナツアー〈真っ直ぐ行ったら愛に着く〉が始まりますね。
小川 アリーナツアーは、ホールツアーとはセットリストを変えて臨もうと思っています。ただ、あくまでアルバムのツアーなので、軸にするのはやはりアルバムの楽曲ですね。今のホールツアーでのセットリストも、すごく手応えを感じているので、それをどう変化させるかは、4月のホールツアーファイナルを終えてから、じっくり考えて調整していく予定です。
─ アリーナになると、気持ちの面やギターの音作りなど、変わってくる部分もありますか?
小川 もともと僕らは派手な演出をするタイプではないし、アリーナでもいつものライヴの雰囲気をそのまま見せられたらいいなと思っています。特別なことをするというよりは、ホールツアーで仕上がってきたものを、そのままスケールアップして届けられたらなと。
─ グレッチの登場回数については、今後どうなりそうですか?
小川 とりあえずは、ここからどんどん弾いていって、まずはもっと“仲良くなる”ところからかなと思っています。5月までに、しっかり関係を深めておきたいですね。
─ 最後に、ギターを長く続けていく秘訣のようなものがあれば教えてください。
小川 最初のうちは、うまくいかないことのほうが多くて当たり前だと思います。でも日々少しずつ積み重ねていくうちに、“あれ?いつの間にか苦手だったフレーズが弾けるようになってる!”という瞬間があるんですよ。すぐに上達するわけじゃないからこそ、それに向き合う気力や情熱が大切。僕自身、最初からプロになりたいと思って始めたわけじゃなくて、何となく楽しいから弾いていただけなんです。次の日もまた弾いて、気づけば自然と続いていた。だから、ただ音を出すだけでも楽しいとか、持っているだけで気分が上がる、それだけで充分なんじゃないかと思いますね。
─ 確かにそうですね。
小川 仲間や友達がいれば、一緒に音を鳴らしてみるのもおすすめです。最初は“下手かも…”とか、“ちゃんと合わせられるかな?”みたいに不安になるかもしれないけど、あまり気にせずにやってみてほしい。クリープハイプの今のメンバーだって、最初のスタジオでは“大丈夫かな…?”ってくらい全然合わなかった(笑)。でも、地道に何度も入っていくうちに、少しずつしっくりくるようになっていったんです。音を合わせるのって難しい。でもだからこそ楽しいし、やりがいもある。ギターもバンドも、長い目で見て、気負わずに楽しんでいけたらいいと思います。
左:G6120(本人所有)
右:White Falcon(本人所有)
クリープハイプ
2001年結成。2009年11月に現メンバー体制となり、本格的に活動をスタートする。2012年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。2014年に初の日本武道館2days公演を開催、2018年5月にも約4年ぶりとなる2度目の日本武道館公演〈クリープハイプのすべて〉を成功させる。2024年11月には、キャリア史上最大規模の会場となるKアリーナ横浜で、現メンバー15周年記念公演〈2024年11月16日〉を開催。2024年12月に7tnアルバム『こんなところに居たのかやっと見つけたよ』をリリースした。