
曽我部恵一 SPECIAL INTERVIEW -後編-
3月 19, 2025
ライヴでそれをやって、僕らが楽しいかどうかが一番の問題
1990年代からサニーデイ・サービスのヴォーカル&ギターとして活動を開始し、2001年からはソロ活動と並行してプロデュース・楽曲提供・映画音楽・CM音楽・執筆・俳優など、形態にとらわれない表現を続ける曽我部恵一がスペシャルインタビューに登場。後編では、今回試奏してもらったFalcon Hollow Body with String-Thru Bigsby and Gold Hardwareについて、そしてグレッチで音楽を奏でる意義について語ってもらった。
─ さて、今回試奏してもらったのがFalcon Hollow Body with String-Thru Bigsby and Gold Hardware(以下:Falcon Hollow Body)というWhite Falconです。曽我部さんが今日持ってきたもの(G6136T-59VS White Falcon)と同じ日本製ですが、モダンスペックのProfessional Collection Falconという新しいモデルになります。モダンな仕様になっているのですが、大きく違うのは新開発のピックアップとブレーシングです。まずは試奏した感想は?
曽我部 今日持ってきたWhite Falconよりもちょっとだけ重い気がしました。
─ お持ちのWhite Falconはラッカー塗装で、今回のFalcon Hollow Bodyはモダン仕様ということであえてウレタン塗装になっています。
曽我部 厚塗りなんですね。
─ ギュッと中域に音が寄るイメージになります。
曽我部 塗装でそうなるんですね。
─ はい。ただボディは5ミリぐらい今回のほうが薄くなっています。あとは見た目でいうと、ヘッドロゴに一番古い縦ロゴが採用されています。
曽我部 ネックは同じなの?
─ ネックの形は同じなんですけどポジションマークが。
曽我部 ポジションマークが見やすかった!
─ ルミインレイといって蓄光になっています。
曽我部 最高ですね。もうそれだけで嬉しいです。そうじゃないと見えないんだよね。ステージでポジションがわからなくなっちゃうんですよ。ピックアップも違うと思いますが、どんな差がありますか?
─ ヴィンテージグレッチからインスパイアされながら、現在の解釈で日本で作ったものになるので出力が若干高くてミッドレンジに力があります。ただ、同じフィルタートロンなのでキャラクターを失わない範囲で現代的なサウンドを目指しました。
曽我部 そうなんですね。今の説明を聞いて今度はアンプにつないで弾いてみますね。
(試奏)
曽我部 ミッド寄りですね。そしてとっても弾きやすいな。グレッチの難しさがちょっと緩和されているというか、普通にレコーディングでも弾きやすいんだろうなと。あと、ビグスビーのレスポンスがいい。柔らかいと言いますか。いいっすね。やっぱりグレッチの音って感じがしますよ。それでいてちょっと使いやすい気がする。素晴らしいと思います。
─ ありがとうございます。「セツナ」でも使えそうですか?
曽我部 はい。使います。
─ フィードバックの感覚が違うかもしれないので。
曽我部 マジで楽しみ。もう1本持っているWhite Falconもけっこう仕様が違っていて、年代でかなり違うんですね。
─ 同じWhite Falconでも三者三様で。
曽我部 何か嬉しい。
─ 楽しみが増えましたね。
曽我部 はい。三兄弟の三男。ロゴがカッコいいですし、真っ白なのがいいです。これは日焼けしにくいんですか?
─ そうですね。ウレタン塗装で日焼けしにくいと思います。
曽我部 G6136T-59VS White Falconを買った時はわりと真っ白に近かったんですけど、“こんなに黄ばむんだ?”って思うぐらいみるみるうちに黄ばんでいって。それが味だと思うんだけど。
─ White Falconに憧れている人は多いと思うんです。
曽我部 いっぱいいる。この間も東広島市にライヴで行った時、地元の洋服屋さんの店主と話をしていたら“いつかWhite Falconが欲しいんです。曽我部さん昨日弾いてましたよね?”みたいな。持てないんだろうなと思いながらも、いつかは持ちたいと思う夢のギターだよね。
─ 実際に弾いてみて、どんなプレイヤーにオススメですか?
曽我部 White Falconはもうサウンドじゃない気がする。“White Falcon弾いちゃうんだ!”っていう世界だから、気合いじゃないんだけど何かを感じるというか、そういうギターな気がする。サウンドがどうこうというよりも存在感というか。
─ さて、2025年はどういう動きをしていくんですか?
曽我部 今年はまたサニーデイ・サービスでレコードを作ってアジアも含めてツアーをしたいなって感じ。
─ 3月に東京でワンマンライヴ2daysがありますよね?
曽我部 そうです。ヒューリックホール東京でやります。
─ その後にアルバムを?
曽我部 レコーディングをしようかなと思ってるんですけど、なかなか難しくって。でも今年は絶対に作りたいなって思ってます。
─ そして、小さなイベントもたくさん出られています。ライヴに対する思いというか、音楽を奏でることを第一優先に?
曽我部 そうですね。ライヴでやってなんぼみたいなところがあるから。特に歌とか。
─ もう一つお伺いしたいのですが、最近はAI技術で歌詞を書いたり音楽を作ったりすることができますが。
曽我部 そうなんですか。でも、面白かったり感動したり、受け取り手が楽しめればいいだけだから、こっちはAIだろうが知り合いのおじさんだろうが、どんな手も借りても面白くするべきだと思う。それがもし良い風になるんだったら、すごくいいと思う。僕はそういうやり方を知らなかったけど。
─ サニーデイ・サービス風の曲をChatGPTにお願いしたら1分で曲を作ってくれます。
曽我部 ライヴでそれをやって、僕らが楽しいかどうかが一番の問題で。無理やり作った曲はライヴで歌わなくなるんですよ。ライヴで歌う曲は、どうしてもそれを人に向かって歌いたい気持ちがあるから飽きてもずっとやるんですけど、ChatGPTで作るとそれがないかもしれないね。そういう曲じゃないと結局はやらないから忘れ去られていく。と言いつつ、一生懸命書いて演奏しても残るものと残らないものがあるから、本当にこれは自分の中でずっと解決しないテーマというか。でも面白いものを作るのが第一なので、それはもう何でもやりたいですね。
─ なるほど。ただ、簡単に言葉にできることって実はあまり大切なことじゃなくて、本当に大切なことってなかなか言葉にできない。それを何とか言葉にする、表現することが一番大事なことなのかなぁと思ったりします。
曽我部 そうですね。だから、逆にAIだとわけわからないものが作れないんじゃないかな。映画を観ててもそうだけど、これ何なんだろう?っていうところに興味を持ったりするじゃないですか。全部腑に落ちると流れちゃうというか。それをAIが作るのはなかなか難しいのかもしれない。
─ 確かに。
曽我部 グレッチの使いにくさとか弾きにくさも同じことで、それでもグレッチで弾くことに意味がある。ニール・ヤングの2ndアルバム『ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース』は、ほとんどWhite Falconで弾いていると思うんだけど、あの異物感というか、当時の他のロックのアルバムとは違う感じってやっぱりグレッチのサウンドなんだろうなと思う。White Falconの何にも馴染まない感じがカッコいい気がする。
─ 最後に、ギターを始めてみようとか、バンドをやってみたいという人たちに向けてメッセージをお願いします。
曽我部 とにかく自分のギターを手に入れて、好きなように弾いてみるのはすごく大事なこと。俺、初めてエレキギターを親戚の人に借りたんですよ。アンプも貸してくれたから爆音で鳴らしてみたら、毛が逆立つような快感があったんですよね。この曲はこう弾きますってことじゃなくて、まずは自分のギターの音を感じてみる。それがロックでは大事だと思っているんですよね。エレキギターってデカい音を出すためにできた楽器だからフルテンで。小さいアンプだとフルテンにしても気持ちいいんですよ。それでエレキギターの威力というか、本当の力を感じたらまた違うと思います。ガツン!っていう力。ベースもそうだしドラムもそうだけど。俺はそう思います。
左:White Falcon(本人所有)
右:Falcon Hollow Body with String-Thru Bigsby and Gold Hardware
曽我部恵一
1971年8月26日生まれ。乙女座、AB型。香川県出身。90年代初頭よりサニーデイ・サービスのヴォーカリスト/ギタリストとして活動を始める。1995年に1stアルバム『若者たち』を発表。70年代の日本のフォーク/ロックを90年代のスタイルで解釈・再構築したまったく新しいサウンドは、聴く者に強烈な印象をあたえた。2001年のクリスマス、NY同時多発テロに触発され制作されたシングル「ギター」でソロデビュー。2004年、自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデント/DIYを基軸とした活動を開始する。以後、サニーデイ・サービス/ソロと並行し、プロデュース・楽曲提供・映画音楽・CM音楽・執筆・俳優など、形態にとらわれない表現を続ける。