横山健 Special Interview -後編-

9月 17, 2021


グレッチは“永遠の憧れ”。Fホールの中に、たくさんの夢が詰まっている

 

1990〜2000年代初頭のメロディックパンクムーブメントを牽引したHi-STANDARDのギター&コーラスであり、Ken Yokoyamaのギター&ボーカルとしてシーンの第一線で活躍し続ける横山健。2015年、グレッチから日本人初のシグネイチャーモデル「Kenny Falcon」が発売され、その後はG6136T-KFJR-FSR Kenny Falcon Jr.、G6134T-KWP KDFSR Kenny Wild Penguinと、これまでに3本ものセンセーショナルなモデルを発表してきた横山健にスペシャルインタビューを敢行。後編では、彼が愛用するグレッチギターについて、他メーカーにはないグレッチの美学、そしてその魅力にについて話を聞いた。

 

完全無欠なギターを欲しい人は、たぶんグレッチには興味を示さない。だけど、そうじゃない人だったら面白いギターだと思います

 

― グレッチのギターは何本お持ちですか?

横山健(以下:横山) 20本ぐらいはあると思います。アメリカのグレッチとの付き合いがあり、いろいろとプロトタイプが送られてくるんですよ。本当は今日も、ヴィンテージじゃなくて珍しいプロトタイプを持ってこようかなと思ったんです。

 

― 今日お持ちいただいたのは、燦然と輝くヴィンテージのWHITE FALCON。改めて何年製ですか?

横山 59年製です。これ、ワンオーナーだったんですよね。その方も当然ミュージシャンです。

 

― 運命的な出会いですね。このWHITE FALCONの特徴は?

横山 バインディングが分厚いんです。グレッチってドラムのメーカーから始まっているんですよね。ドラムシェルをギターに貼りつけてジェットが生まれたり、こういったスパークルのバインディングが生まれているんです。その名残か、いい意味ですごく雑なんです。

 

― さすがにライヴでは使わないですよね?

横山 そうですね。ツアーに持っていったら、バインディングが全部なくなっちゃうと思います(笑)。現行品もそうなんですけど、ファルコンのバインディングって課題なんですよ。僕のKENNY FALCONもバインディングが剥がれることが時々ある。ドラムシェルを貼るので、どうしても接着力が弱くて。ただ、グレッチにはグレッチのレシピが絶対にあるんですよ。それを守るんだったら、もう仕方ないですよね。

 

― そのレシピを変えてしまったら、違う食べ物になっちゃいますからね。

横山 そうなんですよね。他のギターでもいいじゃないってことになっちゃうので。そのへんのちょっとした欠点と付き合っていくのもすごく楽しいですね。

 

― それもグレッチの魅力というか、味なんでしょうね。

横山 完全無欠なギターを欲しい人は、たぶんグレッチには興味を示さないと思うんです。だけど、そうじゃない人だったら面白いギターだと思います。

 

― 健さんがグレッチを弾いているのを見て、グレッチを手に取る若い人たちも多いと思います。ビギナーに、グレッチの選び方や弾き方のアドバイスはありますか?

横山 特別ないですけど、やっぱりグレッチって面倒臭いギターなんですよ。弦をひとつ張るにしても、ビグスビー(ビブラート)が付いていたらもう大騒ぎですから。今は“ピンレス”っていう、弦をストリングススルー方式で簡単に張れるビグスビーも開発されているんですけど、普通はピンに弦のボールエンドを引っ掛けてグルッと回さなきゃいけないんです。そのためには、前もって親指を使って傘の手持ちの形みたいにして…とか。どのギターでも、グレッチはいろいろな面で面倒臭い。でも、最初から面倒臭さに慣れておけば、それはそれで面白いギタリストになると思うんですけどね。

 

― パンクロッカーが、グレッチを持っているだけでカッコいいです。

横山 カッコいいっすよね。やっぱり、装飾美とか見た目ってどうしても二の次にされがちだと思うんです。機能性、音、邪魔にならない音を出すための仕様がメインで。グレッチは装飾や見た目をすごく大事にしているから、パッと見がカッコいいじゃないですか。それが“楽器を弾きたい”と思わせるモチベーションにならないわけがないですよね。

 

― 本当にカッコいいギターなので、弾きたい衝動に駆られます。

横山 僕はそこまで車好きではないとは言え、年々コンパクトになって丸みのある車より、四駆にしてもひと昔前のカクカクとしたチェロキーを見ると“あ!”って思いますよね。本当はデカくて無骨なものが好きなはずなのに、それだとお財布との釣り合いが取れないんでしょうね。燃費だとか環境だとか。でも、ギターはその心配はないですから。置き場所に困るぐらいです。デカいので。ビグスビー付きのファルコンを1本置くスペースがあったら、テレキャスを2本置けます(笑)。

 

― (笑)。音楽もデータや配信で聴くのもいいですが、レコードで聴くとそこでしか味わえない音があります。

横山 便利さを追求していくと、今みんなが手に取るようなものになっていくのは自然の摂理ですよね。僕たちがいくらCDだLPだと言っても、やっぱり便利なものには敵わないので。それはもう否定できない。ギターもきっとそうだと思うんですよ。だけど、そこが一番のプライオリティでなくてもいいのであれば、すっごくカッコいい世界もあるけど?って感じですよね。

 

― 安心、安全、便利に集約されている今こそ、グレッチが大切なことを教えてくれる気がします。

横山 ですね。たぶん、グレッチがすごくエコノミーなギターを作ったって、何の魅力もないしユーザーに響かないと思うんですよね。

 

Ken Yokoyama Special Interview B2

個性で勝負すれば、相手は自分一人しかいない

 

― 話は変わりますが、健さんがギターを始めたのは何歳の頃ですか?

横山 ちゃんと始めたのは15歳の時です。高校入学する時にギターを始めたんですけど、中学校の時から洋楽がとにかく好きで。ベストヒットUSAとかMTVが夜中に1時間やっていた頃ですが、なぜか僕はヴォーカリストよりも脇にいるギタリストのほうがカッコよく見えちゃったんです。

 

― 最初は誰でしたか?

横山 最初はエドワード・ヴァン・ヘイレンでしたね。彼がヴォーカルのデイヴィッド・リー・ロスよりもカッコ良く見えて、ギターを始めたのですが完全に独学です。タブ譜と音楽誌ですね。音楽誌に知っている曲の楽譜が載っていたら買って弾いてみて。

 

― 最初にコピーした曲を覚えていますか?

横山 最初はレインボーの「シンス・ユー・ビーン・ゴーン」です。当然パワーコードでも弾けるので、パワーコードで弾いてみたら“あ、同じ音が出てる!”と思って(笑)。

 

― そんな当時を思い出して、ビギナーへアドバイスを送るとしたら?

横山 僕らがギターを始めた頃は、バンドを組めば女の子にモテる。これが大きなモチベーションだったと思うんです。僕は違うところから入ったから、挫折なくあるところまでいけました。だけど、下心で始めた人は絶対に挫折すると思うんですよ。ただ、女の子にはモテるよ。あるところまで弾けるようになったら。本当に1曲でいいんです。1曲でも弾けるようになったら、もしギターを弾いていなかったらセックスできなかったような女の子ともできる! そのくらいの破壊力がギターにはありますよ。これは騙されたと思ってやってみて(笑)。でもね、ギターを始めるきっかけなんてそんなもんでいいと思うんですよ。“これが弾けなきゃいけない”なんてものはひとつもなくて、何なら“ギターを買ってセックスしたい”でいいじゃないですか(笑)。そんな高尚な理由なんてひとつもいらないですよ。だって、カッコいいから買うんですもん。

 

― 賛同します!

横山 たぶんこれを読む人の中には、“だから健ってギターが下手なんだよ”と思う人がいると思うんです(笑)。上手い下手で言ったら、僕は本当に下手なほうです。これは謙遜ではなく。上手い人って世の中にいくらでもいるから。じゃあ、何がギターで食っていけるとかを分けるかというと、ギターは指じゃなくて人だと思うんですよね。上手さを競ったらいろいろな種類の上手さがあるけれど、ほんのひと握りの人たちでいいんです。個性で勝負すれば、相手は自分一人しかいないので。そこでちゃんとギターという相棒を使って、人が見て喜んでもらえる存在になることが大事だと僕は思うんです。

 

― “指じゃなくて人”は名言です。

横山 でも本当は指ですよ? やっぱり、上手い人の手にはマジックが隠されています。だけど、そうすると上手くならなきゃいけないのかな?とプレッシャーに感じてしまうこともあると思って。まぁ、実際に僕がそうなんですけどね(笑)。

 

― 言い訳ですか!

横山 まさかのグレッチの公式サイトで言い訳(笑)。

 

― でも、別に器用さを競っているわけじゃないですからね。

横山 そうなんです。今はYouTubeやインスタでギターのスゴ技を見せている人がいて、“うわ、すごいな”とは思いますけど、なんか僕はハートを直撃しないっていうか、残らないっていうか。とんでもなくすごいと思うし、これをできるようになるためにどのくらいの時間を費やしたんだろう?って頭が下がる思いですけど、そういう人たちってひと握りでいいんですよね。もしこれからギターを始めようと思う人が、ギターを手に取ってその方向に行くんだったら、それはそれで間違いないと思う。きっとやりたいことだと思うので、それは誰も“間違いだよ”なんて言う筋合いはない。でも、僕みたいなタイプのギタリストから言えることって、さっきみたいなことなんですよね。

 

― 最後の質問ですが、健さんにとってグレッチとは?

横山 “永遠の憧れ”ですかね。ちょっと結婚指輪みたいですね、今のフレーズだと。“ジュエリー グレッチ”みたいな(笑)。このFホールの中に、たくさんの夢が詰まっているんですよ。Fホールがついてないグレッチもありますけどもね(笑)

 

― 健さんもグレッチのすべては把握できていないんですか?

横山 そうですね。ゴールはないと思うんですよ。僕の性根がそうなのかもしれないけど、ハマるとひどいんですよ。本当にとことん行っちゃうんですよね。だから、ハマったのがクスリじゃなくて良かったなと思って(笑)。ブライアン・ジョーンズになっているところですよ。グレッチは歴史のあるブランドだから、古いモデルの研究もできるし、新しいグレッチを今のスタッフたちと作る野望も持てる。あと単純に、“また1本グレッチのギターが増えちゃうんだ。ウキー!”って喜べるんですよね。

 

前編はこちら

 


 

横山健

1969年、東京都出身。1991年、Hi-STANDARDを結成。1999年にレーベル「PIZZA OF DEATH RECORDS」を設立、社長を務める。Hi-STANDARD活動休止後の2004年には、アルバム『The Cost Of My Freedom』でKen Yokoyamaとしてバンド活動を開始。その後2005年に『Nothin’ But Sausage』、2007年に『Third Time’s A Charm』をリリース。2008年1月13日、日本武道館で行われたライヴ〈DEAD AT BUDOKAN〉のチケットは即日完売。2010年に『FOUR』をリリース。2011年3月11日の震災を期に、Ken Bandを率いて東北でフリーライヴ等を積極的に敢行。9月18日にロック・フェスHi-STANDARD主催〈AIR JAM 2011〉を横浜スタジアムで開催。11年 ぶりにHi-STANDARDの活動を再開させ、2012年には横浜での収益を基に念願の東北で〈AIRJAM 2012〉を開催。11月にはソロとして5枚目のアルバム『Best Wishes』をリリース。

2015年、Gretsch Guitarの132年の歴史において、初の日本人ギタリストのシグネイチャーモデル「Kenny Falcon」が発売。2016 年 3月、自身2度目となる日本武道館公演〈Dead At Budokan Returns〉を開催。2021年5月26日には、Ken Yokoyama名義で7枚目となるアルバム『4Wheels 9Lives』をリリース。自身の主宰するレーベル『PIZZA OF DEATH RECORDS』でも精力的に活動し、これまでにWANIMA、HAWAIIAN6、DRADNATS、GARLICBOYS、MEANING、SLANG、SAND、SNUFF等の国内外のバンドを輩出。音楽シーンにおいて常に第一線で活躍している。

https://kenyokoyama.com