佐々木亮介(a flood of circle) Special Interview -後編-
10月 15, 2021
自分が作っている音楽を、このグレッチで奏でたい
a flood of circleやTHE KEBABSなどのバンドでヴォーカル&ギターを務め、ロックシーンにおいて鮮烈な存在感を放っている佐々木亮介。皮ジャンとともに、彼のトレードマークと言えるのがグレッチ。特に愛用しているBlack Falcon とWhite Falconは、彼が生み出す音楽の根幹をも担う重要なパートナーだ。
そんな生粋のグレッチフリークである佐々木亮介にインタビューを敢行。後編では、初心者時代のエピソード、そして彼にとってグレッチはどのような存在なのか、ギタリスト/アーティストとしての気概が垣間見れるインタビューをお届けする。
俺がBlack Falconを買ったように、一番見た目がカッコいいギターを買えばいい
― ギターを始めたきっかけを教えてください。
佐々木亮介(以下:佐々木) 子どもの頃、ベルギーに住んでいた時に、父親がカーステレオでザ・ビートルズをかけていたんです。それで「ヘイ・ジュード」が好きになって。ベルギー盤の青盤で、解説がフランス語でよくわからないんだけど、単語を拾うとジミ・ヘンドリックスとかボブ・ディランって書いてあって、それからロックを知るようになりました。そのあとロンドンに移住して、衛星放送でスピッツを知ったんです。その時はスパイス・ガールズが人気だったので、逆にスピッツが日本語で歌っている内容がすごくショッキングに感じて“これだ!”と。日本に帰ってくる時のお土産みたいな感覚で、ビートルズのコードと歌詞が書いてある本を買って帰ったんです。そうしたら日本にいる親戚からギターをもらって、その時はわからなかったけどガットギターだったんですよ。“歪まないなぁ”と思いながらギターを始めました(笑)。それが13歳の夏。で、エレキギターがあることを知って、津田沼の楽器屋さんでビギナー用の安いエレキを買いました。今思うと速弾き用のギターだったんですけど(笑)。
― 当時の練習方法は?
佐々木 練習ってほどのことはしていなくて、家で一人で弾いていましたね。別にバンドを組んだわけじゃなかったから。ライヴハウスとか、バンドを組んで仲間と出演する感覚もまったくなかったんですよ。
― 意外です。お持ちのグレッチの4本も含めてギターは何本買いましたか?
佐々木 本数はたいしたことないですよ。ラッキーなことにもらったものが多くて(笑)。グレッチの4本を含めて7本ほどです。
― 何を基準にギターを買ってきましたか?
佐々木 別に基準はないなぁ。その時、出会ったタイミングですね。
― Black Falconも試奏せずに買ったんですもんね。
佐々木 そうですね。弾いてもあまりわからないんですよね。“ま、いっかな”みたいな感じなんです。良いところも悪いところも、すべてのギターにはあるような気がするので。ヴィンテージに対しての憧れも別にないし。がっかりの答えかもしれないですけど、買ってから思い入れがついてくる感じですね。
― 作曲の起点となるのはやはりギターですか?
佐々木 そうですね。ピアノで作る時もあるんですけど、それはあえてやっています。ギターで作曲を続けてきて、ちょっと違う脳みそにしてみようとピアノで書いてみる順序なんです。でも、最後はギターに戻ってくる。
― ギターは毎日触りますか?
佐々木 気づいたら触っているかな。さすがにご飯の時にギターを持つことはないですけど、作業をしていてギターを抱えたままご飯を食べることはあります。
― ギタリストとしての野望は?
佐々木 野望はないかなぁ…。ギターそのものというより、曲の中でのギターの置き方とか聴かせ方についていつも考えているんです。そこに無限のバリエーションを感じるんですよね。例えば、一人でジョー・パスみたいになりたいとは思っていないですし、サポートギターとしていろいろな現場に呼ばれたいとも思っていない。自分が作っている音楽を、このグレッチのギターで奏でたいって感じなんです。人の音楽にこのギターを持って乗り込んで、お金を稼ぎたいとも思っていないです。
― 佐々木さんらしい感じがします。ところで、コロナ禍でギターを始める人も多いですが、ビギナーへアドバイスをお願いします。
佐々木 好きなギターを買わないと続かないと思っています。俺がBlack Falconを買ったように、一番見た目がカッコいいギターを買えばいいと思うんです。音なんてあとからどうにかなると思うので。“いい音って何ですか?”と楽器屋さんの店員に聞いても、それはその人のいい音ですから。一番好きになりそうなギターをゲットして、自分で見つけていけばいいと思います。自分で見つけることをサボったり、つまらないとか面倒臭いと思うんだったら、あまり向いていない気がします。アドバイスがあるとしたら、お気に入りのギター、見た目が一番カッコいいギターをちょっと背伸びしてでも買うということです。
周りが何と言っても、自分が好きだったらトライしていくうちに絶対に似合ってくる
― 佐々木さんにとってグレッチとは?
佐々木 Black Falconは世界で一番カッコいいギターだと思います。出会った時にカッコいいなと思った気持ちがまだ変わっていないし、これよりもカッコ良くて欲しくなったギターはないですから。もしあるとしたら、赤いファルコンを作ってほしいとか、新しく作らないと出会わないギターくらいで。
― White Falconは“世界で一番美しいギター”と言われています。
佐々木 僕もそう思っています。他に欲しいギターがないんですよ。だから満足している。音楽には満足していないけど、Black Falcon自体に不満はないです。ちょっと申し訳ないのは、ピカピカに磨こうという気持ちがないんです。塗装が剥がれていてもカッコいいと思っています。
― 佐々木さんのBlack Falconも、汗などがその緑青になっているわけで、ライヴハウスでロックしてきた証ですよね。
佐々木 うん。これをピカピカにしたら普通になっちゃいます。この緑青や傷があってこそ俺のギターだと思って、そのままにしているのかもしれない。
― 同じ時期に買った革ジャンに近いですよね。
佐々木 その革ジャンもいい値段したけど、結局は鋲を打ったなぁ(笑)。革ジャンにしろグレッチにしろ、ロックンロール全般に歴史があるじゃないですか。だから、自分がオリジネーターと言ったら嘘になっちゃう。でも、カスタムして何かを変えたい。もしかしたらそれが、自分にとっても聴いている誰かにとっても、歴史が一歩進んだことになるかもしれないから。カスタムする気持ちは大事だと思う。それが、ただ汚れているだけだとしても。
― スーツと違って革ジャンは汚れもカッコいい。むしろ、傷や汚れが着ている人の生活をポジティヴに想像させてくれる。そういうところもグレッチにはあるんでしょうね。
佐々木 日本に工場ができて、“アメリカでは作らなかったものを作る”というスタンスも好きなんです。“ヴィンテージのあのグレッチがいい”という人もいると思うけど、俺は違うもの、新しいものが生まれていいと思っています。もしかしたら、そこから誰かが本物になるかもしれないから。じゃないと、ロックも古い音楽だけを聴いておけばいいじゃんってなっちゃう。それはちょっと寂しいかな。音楽を好きになったからには。
― どんな人にグレッチをオススメしたいですか?
佐々木 グレッチって、どれも高価だと思い込んでいたんですよね。実際に、Black Falconを新品で買うと安くはないけれど、シカゴで買ったStreamliner Collectionはいいなと思っています。で、グレッチに潜在的に憧れている人はたくさんいると思うんです。みんなグレッチのことをカッコいいって言うし、じゃあ何で買わないの?って思うんです(笑)。“高い”とか“自分には似合わない”が先行している気がして。俺もBlack Falconを買った時、身近な人たちはTelecasterのイメージがあったから、“似合わないよ”って言われたんですよ。でも、今俺がテレキャスを持つと似合わないって言われるんですよね(笑)。洋服もそうだけど、周りが何と言っても、自分が好きだったらトライしていくうちに絶対に似合ってくるんです。憧れを持っていたり、いいなと思っているなら、“いっちゃえば?”って思います。そのうち似合ってくるはずだから。横山健さんも絶対にそうだったと思うんですよね。グレッチかよ!と思ったファンもいたかもしれない。
― しかも、短パン姿にグレッチですからね!
佐々木 そう! しかも、アンプで超歪ませているし。それこそ邪道だったはずだけど、それをねじ伏せて“横山健はこれじゃい!”ってやっている人だと思うんです。そしてグレッチが似合ってきている。潜在的にグレッチに憧れている人がいるのなら、ゲットしちゃえば?って思います。
佐々木亮介
1986年、東京都出身。2006年、a flood of circleを結成。メンバーは、佐々木亮介(Vo, Gt)、渡邊一丘(Dr)、 HISAYO(Ba)、アオキテツ(Gt)。常にコンテンポラリーな音楽要素を吸収し進化し続け、最新のロックンロールを更新し続けているバンド。結成15周年となる2021年8月11日に、THE BACK HORN、SIX LOUNGE、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)、山中さわお(the pillows)、Reiが作詞作曲をし、a flood of circleがレコーディングをした前代未聞のアルバム、15th Anniversary Album『GIFT ROCKS』を発売。2018年には、新井弘毅(Gt,Cho)、田淵智也(Ba,Cho)、鈴木浩之(Dr,Cho)とともにTHE KEBABSを結成。