yutori Special Interview -後編-
7月 10, 2026
バンドがうまくいくコツは、いっぱいケンカすること
グレッチの魅力についてじっくり語ってもらった前回に引き続き、今回はyutoriの佐藤古都子(Vo,Gt)と内田郁也(Gt)に、バンドの結成の経緯からバンドを長続きさせる秘訣まで語ってもらった。最後には、ビギナーが1本目のギターを買う時のアドバイスももらっているので、ぜひ参考にしてみてほしい。聴き手の心にそっと寄り添うバンドは、楽器初心者にも優しかった。
― 音楽に目覚めたきっかけを聞かせてください。佐藤さんの原体験はユーミン(松任谷由実)ですよね。なぜユーミンだったんでしょう?
佐藤古都子(以下:佐藤) 小学生の時、家にいる時間がすごく長い時期があって、その頃にやることないかなと思っていたらちょうどCDプレーヤーとCDが目について、一番気になったジャケットのCDをかけてみたらそれがたまたまユーミンで。以前から母も鼻歌でよく歌っていたんですけど、その時は誰の曲なのかわかってなかったので、“あ、これいつもお母さんが鼻歌で歌ってるやつだ”って。そこからよく聴くようになりました。
― その一方でボカロも聴いていたという。「千本桜」がきっかけなんですよね。
佐藤 小学校5〜6年生の時に、音楽の先生から誘われて、有志の音楽隊のようなものにヴォーカルとして入った時に、課題曲の一つとして「千本桜」があったんです。
― 内田さんはどうでしょう?
内田郁也(以下:内田) 僕、そもそも楽器を始めるまであまり音楽に関心はなかったんですよね。でも、高校の途中までサッカーをやってたんですけど、足の怪我のせいで辞めた時にバンドに誘ってもらって。よくある、バンドのギターの子がいきなり辞めちゃって文化祭に出られないから入ってくれ、みたいな。それで、楽器はやったことないけど面白そうだなと思って加入して、それがきっかけで音楽に触れるようになったんですよ。だから、俺は同じバンドシーンにいる他の人よりも音楽に触れたのが遅いんですよね。でも、それもあってなのか、海外の偉大なギタリストから影響を受けている人たちが多い中、俺は現代のギタリストからの影響をより濃く受けてそれをアウトプットしてるので、他の人とは違う部分が出ているのかなと思います。ちなみに、最初に弾いた曲は、KANA-BOON「ないものねだり」でした。
― 「ないものねだり」って初心者がいきなり弾けるほど簡単な曲でしたっけ?
内田 セブンス系のムズいコードから始まるんですよね。その頃は音感もなかったから、“この響きで合ってんの?”みたいなことをずっとやってたのは覚えてます。その他に聴いてたのは親が流してたJ-POPが多かったので、そういうところからも無意識のうちに影響を受けてますね。俺のギターフレーズがメロディ重視になってるのも、そこからの影響が大きいのかもしれない。
― 佐藤さんが初めてギターを持ったのはいつですか?
佐藤 yutoriを始めて1年経ったぐらいですかね。yutoriを組んだのは私が高校2年生の時で、ライヴをするようになったのは大学受験が落ち着いてからだったので、“進学先が決まりました! よし、ギターを買いましょう!”で、“何か月後にライヴが決まってます”みたいな。でも、これまで触れたことのないギターを買うって、一人だとちょっと怖いし何がいいのかわからないから、郁也(内田)を誘って一緒に御茶ノ水の楽器屋さんへ買いに行きました。
― 初心者の頃はどんな練習をしましたか?
佐藤 私はもう、やる曲があったというか…。
― そうか、佐藤さんはちょっと特殊ですよね(笑)。
佐藤 そうですね(笑)。だから、ライヴでやる予定だった曲を弾いて、わからないところは郁也に教えてもらったり。
― じゃあ、いきなり曲を弾くところから入ったんですね。
佐藤 そうですね。コードの押さえ方とかストロークもわからないし。だから、メトロノームをピポパポ鳴らしながら必死に頑張ってましたね。
― 内田さんはどんな練習をしていましたか?
内田 僕も文化祭に出ることが決まってたので、自分がわかっていないコードを4つ弾く練習をしました。文化祭が終わってからは、ギターのどこをどう押さえたらどの音が鳴るっていう感覚がまったくわからなかったから、その感覚を掴むために、ギターのフレーズじゃなく、歌のサビメロを耳コピすることにして、そうすることで“こことここは半音じゃないんだ”みたいにフレットの間隔がだんだん理解できました。今思うと、耳コピや音感を養う練習をめっちゃしてましたね。メロディが弾けるっていちばん音楽を再現できてる感じがするじゃないですか。そういう達成感が欲しくて練習をしてた気もしますね。だから、基礎練とかちゃんと練習をし始めたのはyutoriを組んでからでした。
― ギターという楽器の仕組みを知るところから始めたんですね。
内田 そうです。ここからここまでだとどれくらい音の幅があるんだろうとか、ここに行ったらこの音が鳴りそう、みたいな勘を養うところから入りましたね。でも、もっとちゃんと基礎練をやっとけば良かったですね。
― そういう後悔はあります?
内田 結構ありますね。スケール練習とかメトロノームで練習することの大切さは、yutoriを始めてから痛感しました。軽音部の頃は指定された音が出れば上手だと思っていたけど、そうではなくて、ちゃんとリズムに乗れてるかどうかや、音が“鳴っている”のと“鳴らしている”の違いとかを意識し始めたのは、ちゃんと人前に立ってお金をもらって楽器を鳴らすということを経験してからでしたね。最初の頃からそんなこと考えていたら続いてなかったのかもしれないですけど、最初から今言ったような練習をしてたらどうなってたんだろうって思う部分はありますね。
― 今、お話にもあったように、yutoriが結成されたのは佐藤さんが高2の時ということで、そもそも1曲レコーディングするために集まったんですよね?
内田 全員バンドをやりたかったんですけど、誰も曲が書ける状況でもなくて。でも、ペルシカリアの矢口くんが“古都子の声は世に出したほうがいい”って言っていて、“じゃあ、みんなで1曲だけ試しにやってみない?”っていうことで録ることになりました。
佐藤 だから、その曲を録って世に出して、それで終わりだと思ってました。
― でも、驚くほど反響が大きかった。
佐藤 “次の曲が楽しみです”っていうコメントがあって、“あ、次の曲あるんだ”って(笑)。でも、自分としてはずっとやりたかったレコーディングというものが経験できたからそれで終わろうと思ってたんですけど、ペルシカリアの矢口くんとか、郁也とドラムの(浦山)蓮が“続けないですか?”って言ってくれて、それで“もうちょっとやってみようか”って。
― 佐藤さんとベースの豊田太一は部活の先輩後輩の関係でしたけど、それ以外は知り合いじゃなかったんですよね。そういう薄い関係性だった4人の活動がこんなにも長く続いているという。バンドがうまくいくコツって何だと思いますか?
佐藤 いっぱいケンカすることですかね。
内田 バンドを続けることにおいては、本当に僕もケンカすることだと思います。
佐藤 私たちは友達ではなかったので、もう6年目ですけど、人間関係がうまくいかない瞬間もたくさんあって、ひと月口を利かないことがあったり、楽屋を別にしたりとか。
― え!?
佐藤 そんな状態が長く続いたらよろしくない方向に進むじゃないですか。なので、“こりゃいかん”ってなって、4人でご飯を食べに行ったり、そこで“私はあんたのこういうところがめっちゃ嫌いなんですよ”“じゃあ、言わせてもらうけど、俺も古都子のこういうところは本当に嫌なんだよ。直せないの?”“わかった。じゃあ、お互い嫌ならここを直そう”っていうのを繰り返してきてますね。やっぱり、生まれた環境も育ちも与えられた影響も全員違うので、そりゃケンカしないとうまくいくわけないよなとは思いますね。
内田 話し合うことは大事ですね。自分が当たり前だと思っていることの押し付け合いになって、簡単にはそこは合わないわけですから。だから、話し合いを増やす、コミュニケーションをとることは大事だし、その中で起きるケンカは仕方ないなと思います。

― 作品についてもお聞きしたいのですが、最新ミニアルバム『心の微熱』はすごく温かい作品だと思いました。
佐藤 生活に寄り添った楽曲が集まりましたね。
― 意識してこういう手触りのものになったんですか?
内田 今回は自分に身近な楽曲が多かったからこそ熱を帯びるような感覚があって。そういう温度感を表現したくて、“微熱”という表現にしたんだと思います。
― ヴォーカルの雰囲気もだいぶ変わったというか、表現の幅が広がった印象です。
佐藤 確かに。収録曲に振り幅があるというか。「生活」「爪色とグラスの縁」「僕らは孤独だ」は温かい楽曲だけど、「愛してるって嘘ついた」や「数%のハッピーエンド」は歌詞が突き放すような感じだったり、ギターフレーズも暴力的なので、そこの差によって自然と歌の幅も広がったのかなと思います。
内田 僕は歌の裏でどれだけギターで主張できるかということを考えていて。歌がいちばん心に寄り添えるものだと僕は思ってるんですけど、歌がないところのギターで温かみは表現できると思うので、よりメロディライクというか、口ずさめるようなメロディとか、耳馴染みのいい温かさを意識しました。温度という点では、レコーディングでの音作りをめっちゃ気にしてましたね。
― 『心の微熱』のリリース後は全国ツアーを行い、KT Zepp Yokohama公演も成功させました。これを経て、今後へ向けて新たな道が見つかったり、思考が広がった部分はありますか?
佐藤 自分としては表現の幅もどんどん広がっているので、そろそろフルアルバムを作って、今回の『心の微熱』に入っている「爪色とグラスの縁」のように、もっと遊んでいきたいと思ってます。
内田 僕は今回のツアーで、熱量をより伝えることができて、お客さんとの距離は縮まったとすごく感じたんですよ。自分たちも本気度を底上げして、ライヴが終わった後に全員ぶっ倒れるぐらいの気持ちでやってたんで。それは今後のツアーにも必ず活きると思うし、どんなコンセプトのツアーでもこの熱量を絶対に保っていたいんですよね。その上で、サウンド面とか繊細な部分は機材や楽器によって変わるものだと思うので、グレッチのギターもライヴのワンシーンを変えたり、お客さんの心を動かすきっかけのひとつになると僕は思うので、今回弾いてみて自分の心の中で動いたものがあったように、ライヴでもお客さんの心を動かせたらと思います。今後も、温かみや熱を大事にして活動していけたらと思ってます。
― では最後に、初心者の人に向けて1本目のギターの買い方のアドバイスをお願いします。
佐藤 初心者でギターの音の違いがわからないとなると、ビジュアルが好きにならないと練習する気にならないと思うんですよね。やっぱり、練習するなら気分が上がったほうがいいじゃないですか。だから私は、ほかの何よりもビジュアルが好きになったものを買えばいいと思いますね。
― 音は二の次でいいじゃないかと。
佐藤 まあ、音楽やってる人が言っていいセリフかどうかわからないですが(笑)。
― でも、そのギターを気に入って弾きまくるかどうかで今後の自分の進む方向が変わってくるわけで、最初のモチベーションは大事ですよね。
佐藤 あと、判断基準としては、そのギターを持ってる自分が想像できるかどうか。想像できるのであれば、そのギターとの相性はいい気がします。
― 逆に、こういうギターは買わないほうがいい、というものはありますか?
内田 買っちゃいけないギターはないと思いますね。ビジュで選ぶのも大事だけど、高くて買えないのであれば、1万円するかしないかのものでも欲しいと思うなら買うべきだし。結局、自分がそのギターを好きかどうかって相当弾かないとわからないじゃないですか。だから、その時の衝動で買うのが一番かなと思います。ただ、自分の懐具合に合わない高いギターを無理やり買わされるのだけはやめたほうがいいと思います(笑)。

yutori
2020年12月7日、東京にて結成。佐藤古都子(Vo, Gt)、内田郁也(Gt)、豊田太一(Ba)、浦山蓮(Dr)からなる4ピースロックバンド。結成直後に音楽投稿プラットフォームEggsへ公開した「ショートカット」がランキング4部門を制覇し、鮮烈なデビューを飾る。日常に潜む痛みや切実さを、佐藤の激しくも儚い歌声で描いた楽曲が同世代を中心に支持を獲得。2022年にはドラマのタイアップ曲「モラトリアム」でインディーズバンドとして異例の注目を集め、〈JAPAN JAM〉〈METROCK〉など大型フェスにも出演。2025年4月、TVアニメ『ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミアILLEGALS-』エンディングテーマ「スピード」でKi/oon Musicよりメジャーデビューを果たした。
