菅波栄純(THE BACK HORN)SPECIAL INTERVIEW -後編-

4月 29, 2024


 

恋愛漫画じゃないけど、ようやくちゃんとギターと付き合うことになった感覚なんです

 

結成から26年、日本屈指のライヴバンドという地位を揺るぎないものにしながらもなお新たな可能性を追求することに挑み続けている4人組ロックバンド、THE BACK HORN。“KYO-MEI”という言葉をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けることをバンドの意思として掲げる彼らの激情あふれるサウンドを印象づけているのが、菅波栄純のギタープレイだ。その菅波がグレッチのスペシャルインタビューに登場。後編では彼のメインギターであるG6131 Jet Firebird(以下:Jet Firebird)に対する愛着に加え、THE BACK HORNの今後の活動について聞かせてもらった。

 

― メインギターであるJet Firebirdとは、どんなふうに出会ったのでしょうか?

菅波栄純(以下:菅波) 今日持ってきたJet Firebirdは2号機なんですけど、同じ型の1号機を買ったのは自分が上京してきた年なので1998年ですね。作曲の勉強をしたくて専門学校に入ったんですけど、楽器を演奏できる人たちがいっぱいいるからバンドを組まないともったいないって急に思ったんですよ。それで今のメンバーに声を掛けて、同時にメインのギターが欲しくなって、楽器屋さんに行った時に出会ったのがJet Firebirdだったんです。

 

― グレッチのギターが欲しかったんですか?

菅波 いえ、カッコいいギターが欲しかったんです。ただ者じゃないなって思われそうな。それで飛び込みで楽器屋さんに入ったら、通路の一番奥に置いてあって、もう一目でカッコいいと思ってその場で即決してローンで買いました。

 

― まずは見た目に惹かれた、と。

菅波 そうです。目に飛び込んできたんです。“あいつと言えばこのギター”みたいな憧れがあって、俺とJet Firebirdはまさに今そうなっていますけど、そんなふうになりたいと想像している絵にぴったりのギターが現れて。金色と赤色というカラーリングの派手さというか、振り切っているところがめちゃくちゃカッコいいなと思ったし、それが下品に見えないのもいいと思ったのは覚えています。このヘッドの大きさも遠くから見た時に良くて。このシリーズはヘッドの大きさが時期によってけっこう違うんですけど、ラージヘッドだったところも選んだ理由だったかもしれない。試奏した時、ピックアップがフロントに設定してあったんですよ。グレッチのフロントってJet Firebirdでも独特の鳴りしていて、太くて甘い音なんです。それにもやられました。

 

― それから、2号機を含めJet Firebirdをメインとして使い続けてきましたが、他のギターも使ってみようと考えたことはなかったんですか?

菅波 使ってはいるんですよ。例えばレコーディングではモダンなギターも使うんですけど、ライヴではやっぱり元々バンドを始めた時に夢見ていた姿を未だに追い続けているというか、“あいつと言えばこのギター”って言われるギタリストになりたかったので、わりと頑固にライヴはこれでいきたいんです。ただ、レコーディングはいろいろなギターで録っているから、Jet Firebirdで弾いちゃうと(音の)辻褄が合わない曲とか弾きづらい曲があるんですけど、それでも世界観を大事にしたい。普段、そんなに意識しているわけではないんですけど、振り返ってみるとそういうところをけっこう気にしているんだなって思います。ギターによって自分の好みを変えられているというか、“これがカッコいいんだ”ってJet Firebirdに教えられているところもあります。あと、すごく軽いのもあるかもしれない。ステージで暴れながら演奏するスタイルになったのは、たぶんJet Firebirdが軽かったからじゃないかと思います。もし重いギターを持っていたら、そんなに暴れていなかったかもしれない。

 

― 菅波さんがギターに求めるこだわりは?

菅波 やっぱり見た目ですね。ギターを買う時のあるあるなんですけど、ギターそのものはカッコいいけど、それが自分に似合うかどうか、その場ではわからない時ってあるじゃないですか。でも俺は正解を持っていて、使っていれば似合っていきます。だから見た目でカッコいいと思ったギターを買うのが絶対に正しい。そこは直感に任せたほうがいいと思います。こだわりというよりは、もう少し本能的なものかもしれないですけど。

 

― 音に関してはいかがですか?

菅波 音は2通りあります。Jet Firebirdがもうあるから、この位置は変わらないかもしれないけど、“このギターが俺なんだ”みたいな音が出るやつが1本、やっぱり欲しいと思います。でも俺はJet Firebirdに出会えたから、その夢はもう叶っているんですけど、それぞれに違う音が出るギターをいっぱい持っていることに越したことはないと、THE BACK HORN以外のアーティストに楽曲提供する作家活動をしながら思ったんです。それでも俺は本数が少ないタイプなんですけど、EQでいじるよりもギターを替えたほうが早いことが意外と多い。ギターを替えてみたら一発で決まったこともあるので、作家活動をするならいろいろな音が出るギターをたくさん持っておいたほうがいいとは思います。

 

Backhorn Suganami 4

 

― さて、今後の活動についても聞かせてほしいのですが、THE BACK HORNの結成25周年を経て現在はどんな心境なのでしょうか?

菅波 ギタリストとしては、やっとスタート地点に立てたのかな。遠回りしてきたというか、ギターと自分の関係性はけっこう複雑だったと思うんですよね。ギターが単純に好きだから弾き始めたわけじゃないから、都合のいい時に呼び出されて、使われているみたいな感じだったと思うんですよ。いや、ギターの気持ちになればですよ? でも今はおじいちゃんになるまで一緒にいようって思えるんですよね。だから恋愛漫画じゃないけど、ようやくちゃんと付き合うことになった感覚なんです。これからですね。

 

― ギタリストとして、さらなる可能性を追求していくぞと。バンドとしてはいかがですか?

菅波 バンドは続ければ続けるほど味が出ることに気づいたので、行けるところまで行きたいですね。バンドって、音の混じり方にメンバーの関係性が出ると俺は思っているんですけど、THE BACK HORNの4人の音の混じり方は歌も含めいまだに少しずつ変わっていっていて、これを続けていったらどういう音になるんだろうと興味が尽きないんです。その探求心が終わらないうちはバンドは続いていくと思うし、ずっと続けていきたいと思っています。

 

― 今後の予定としては、77日から全4公演を開催する〈KYO-MEI対バンツアー」〜共鳴破天の夜〜〉と728日の〈「KYO-MEIワンマンライブ」〜第五回夕焼け目撃者〜〉が決まっています。

菅波 ワンマンは日比谷公園大音楽堂で、前回の野音は映像にも残っているんですけど、伝説になるくらいのとんでもない大雨で…。今回は晴れてほしいです(笑)。本当に98%はその気持ちしかなくて、あとの2%は雨が降ってなくてもカッコいいんだぞ、ということを伝えたいです。

 

― 対バンライヴについても意気込みを聞かせてください。

菅波 対バンライヴを心底楽しめるようになったのが、俺は本当にここ最近なんです。知らない人がいるとけっこう緊張しちゃうので。だからやっぱりスタート地点なのかな。今回は楽しもうと思います。

 

― 最後にギターのビギナーにメッセージをお願いします。

菅波 そういうことも、やっぱり発信していったほうがいいのかなって最近は思い始めていたんです。1人でも多くの人に音楽をやってほしい気持ちが急に芽生えてきて。もしかしたらギターとの関係がやっと付き合うまでに進めたから、心の余裕ができたのかもしれないですけど、ただ何を言ったらいいんだろう? 自分は音楽をやっていると楽しいし、救われるし、ギターを弾いている時ぐらいなんですよ。本当にリラックスしているのは。いや、ライヴでは緊張しますけど、家でぽろぽろ弾いていると、本当に幸せな気持ちになるんです。もしかしたら絵を描いたりすることとかも一緒なのかもしれないけど、大袈裟なものじゃない、日常的なアートをしていくっていうことの価値がこれからどんどん高まっていくと思うんです。みんな自分なりの何かを表現する時間があったほうが、きっと生きていて楽しくなると思うので、その1個の選択肢にギターがなってくれれば、俺らは本当に幸せだし、その1個の選択肢として、ギターはめちゃくちゃいいよ。ギターを弾いたら本当に幸せになれるよ、みたいなことは言えると思います。

 


 

菅波栄純

4人組バンド、THE BACK HORNのギタリスト。メンバーは、山田将司 (Vo)、岡峰光舟 (Ba)、松田晋二 (Dr)。1998年結成。2001年、シングル『サニー』をメジャーリリース。〈FUJI ROCK FESTIVAL〉や〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL〉などでのメインステージ出演をはじめ、近年のロックフェスティバルでは欠かせないライヴバンドとしての地位を確立。そして、スペインや台湾ロックフェスティバルへの参加を皮切りに10数カ国で作品をリリース。黒沢清監督映画『アカルイミライ』(2003年)主題歌「未来」をはじめ、紀里谷和明監督映画『CASSHERN』(2004年)挿入歌「レクイエム」、乙一原作『ZOO』(2005年)主題歌「奇跡」、アニメ『機動戦士ガンダム00』(2007年)主題歌「罠」、水島精二監督映画『機動戦士ガンダム00 -A wakening of the trailblazer-』(2010年)主題歌「閉ざされた世界」、熊切和嘉監督とタッグを組み制作した映画『光の音色 –THE BACK HORN Film-』、作家・住野よるとコラボレーションした小説×音楽の話題作「この気持ちもいつか忘れる」など、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観から映像作品やクリエイターとのコラボレーションも多数。結成25周年を経た今も、日本屈指のライブバンドとしてその勢いを止めることなく精力的に活動し、7月より〈THE BACK HORN「KYO-MEI対バンツアー」〜共鳴破天の夜〜〉を開催。

 

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