横山健 SPECIAL INTERVIEW -前編-

9月 26, 2023


 

僕みたいなギタリストがFalconを弾いていたら、みんなびっくりするだろうってワクワクしたんです

 

メロディックパンクムーブメントを牽引するだけにとどまらず、多くの若者にバンドサウドの魅力を伝え、楽器を手に取らせるきっかけも作ったHi-STANDARDのギター&コーラスとして、そして、自身のバンドKen Yokoyamaのギター&ヴォーカルとしてロックシーンの最前線で活躍し続ける横山健。グレッチ初の日本人アーティストとして、これまで3本のシグネイチャーモデルを作ってきたその横山が、このたび7年ぶりに新しいシグネイチャーモデル「G6136T Kenny Falcon™️ II with String-Thru Bigsby®️」(以下:Kenny Falcon II)を発表。それを記念するスペシャルインタビューの前編では、Kenny Falcon IIを開発する時のこだわりを、開発の裏話とともに聞かせてもらった。

 

初代のKenny Falconである程度は“守”の部分はやれたので、今度は破ってみたかった

 

― 新しいシグネイチャーモデルのKenny Falcon IIはすでにライヴでも使用されていますが、現在の横山さんにとって、どんな存在なのかというところからまず聞かせてください。

横山健(以下:横山) メインギターという意識がすごく強いです。シグネイチャーモデルってやっぱりちょっと照れ臭くもあるんですよ。特に今回のように出来上がってから発売までに1年半とか時間があると、その間、僕だけしか弾いていない。それが嬉しくもあり照れ臭くもあり(笑)。それがやっと、皆さんにも弾いてもらえることになって、その照れが少しなくなるんじゃないかなという気がしています。

 

― 誰も持っていないギターを、自分1人が弾いていることが照れ臭いんですか?

横山 はい。シグネイチャーモデルと言うよりは、“このギターに関しては”かもしれないです。すごく派手じゃないですか。なので、若干の照れがありました(笑)。もちろん、“これカッコいいでしょ!”っていう気持ちのほうがでかいんですよ。でも、それと同時にピックアップを3つも付けちゃって照れ臭いなっていう(笑)。

 

― シグネイチャーモデルとしてはKenny Wild Penguinから7年ぶり。7年ぶりに新たにシグネイチャーモデルを作ることになったきっかけは、どんなことだったんですか?

横山 2015~2016年に3本のシグネイチャーモデルを出した時は、日本の流通が現在とは別の会社で、ちょっと限定商品に近かったんです。その後、僕はアメリカのグレッチと直接契約することになったんですけど、そろそろ新しいものを作りたいと思ったんです。これまで出した3本は市場には出ているかもしれないけど、もう新品は生産されていないんです。それがちょっと寂しかった。せっかくグレッチと契約したのに自分の看板モデルがないなんて寂しいと思って開発を始めたんですけど、2年ぐらいかかっちゃいましたね。エキセントリックなギターを作りたいと思ったんですけど、どういうギターがエキセントリックに映るか、“こういうギターは今までなかったね”となるか、時間を掛けて手探りしながら開発していったんですよ。

 

― これまでの3本もグレッチのトラディショナルなスタイルをリスペクトしつつ、グレッチのイメージを壊したい。グレッチの第3次黄金期を作りたいという思いから作られたと思うのですが、エキセントリックなギターを作りたいというのは、もちろん、それをさらに発展させるということなんですよね?

横山 そうです。日本の武道の世界に守破離という言葉があるんですよ。守って、破って、離れる。これが伝統を受け継ぐ上での武道の大きな考えなんです。まずは伝統を守ることを念頭に置いて取り掛かる。破るというのはそこからはみ出してみることですね。そして、最後は守ってきたものから離れて、別の流れを作る。ロカビリーとか、ロックンロールとか、そういうイメージがすごく強くて、実際、そういうシーンのミュージシャンに愛されてきたグレッチを、僕みたいな使い方をするギタリストはいなかったと思うんですよ。そういう意味では、グレッチプレイヤーの中でもエキセントリックな存在だったと思うんです。それに相応しいものを作りたかったんです。初代のKenny Falconで、ある程度は“守”の部分はやれたんじゃないかと思ったので、今度は破ってみたかったんです。グレッチにおける自分の存在を具現化するという感覚に近いのかな。

 

― その破るというところで、一番追求したのはサウンドなんですか?

横山 いえ、ルックスですね(笑)。カラーリングです。最初の頃、僕がアメリカのグレッチに提案したアイディアは突飛すぎたのか、返事が来なかったこともありましたけどね(笑)。結局、Kenny Falcon Jr.で使ったEarly Summer Greenというオリジナルカラーに、スパークルフレークを混ぜたらどうなるかってところから、今回“Early Summer Green Sparkle”という色になりました。Early Summer Greenとは全然風合いの違う色になって、これはありだとなりましたね。なぜか、これはアメリカのグレッチからOKしてもらえたんですよ(笑)。

 

― 今回、ボディのサイズを、小ぶりで弾きやすいとおっしゃっていたKenny Falcon Jr.16インチ幅のレギュラースケールから、初代のKenny Falconと同じ17インチ幅のロングスケールに戻したのはなぜだったんですか? 

横山 確かに16インチ幅のギターは操作性がいいし、僕ぐらいの背丈には合うと思うんですけど、17インチ幅のギターを弾くと、でかくてカッコいいと思うんですよ。正直、16インチ幅でも17インチ幅でもどっちでもいい(笑)。中には、ロングスケールを弾いたら弾き心地が違って、うまく弾けない人もいるかもしれないですけど、僕はあまり関係ないみたいで。だったら、フルサイズの17インチ幅でいってみようと思いました。

 

― インレイを含め、ネックはどんなところにこだわりましたか?

横山 フェザーインレイを使っています。もともと、フェザーインレイのFalconが好きなんですけど、実はプロトタイプを上げてもらった時から入っていたんです。そこまで細かいことを詰める前にプロトタイプが送られてきて、その時、フェザーインレイがかっこいいと思いました。合わなかったら変えていたと思いますけど、ばっちりハマっていたのでそのままお願いしました。

 

Kenny Falcon Jr.はマッチングヘッドでしたが、Kenny Falcon IIは初代Kenny Falconと同様にナチュラルヘッドですね。

横山 アメリカのグレッチの担当がジェイソンさんっていうんですけど、ジェイソンさんがカラーコーディネートしてくれたんだと思います。スイッチの配置についてはかなり議論したんですけど、ボディ以外の色についてはジェイソンの判断なんじゃないかな。ナチュラルヘッドであることとか、シルバーバインディングでシルバーパーツであることとか、全部ジェイソンさんが決めてくれたんだと思います。もちろん、嫌だったらどうしたいか言ったと思うんですけど、スパークルフレークを混ぜるとシルバーが合うんです。もう、ばっちり弾ける気がしました。ただ、プロトタイプはヘッドがバーチカルロゴだったんですけど、それだとどこからも横山健のシグネイチャーモデルだということが感じられないと思って、初代のKenny Falconを踏襲して、ヘッドにThe Kenny Falcon IIと彫金で入れたプレートを付けることにしました。

 

Ken Yokoyama Interview 1B

 

とにかく見た目が強烈でカッコいいギターを作りたかった

 

― 今回、ピックアップを3つにしたのはどんな発想から?

横山 ルックスを重視した結果です。3ピックアップのギターってカッコいいと思ったんです。センターの音が欲しいなんて話ではなくて、ただそれだけのことなんです(笑)。

 

― ピックアップを3つにすることで、音は変わってくると思うのですが。

横山 実は、センターピックアップはそんなに使わないので、サウンド面では3つにした恩恵には預かっていない(笑)。ただ、見た目がめちゃカッコいいと僕は思うんですよ。このギターを見た人に、“あれ何に使うんだろう?”と思わせるというか、結局、使ってないんですけど(笑)、それが抜群にイカしているポイントだと思っています。見た目がカッコいいだけで充分なんじゃないかな。グレッチのサウンドが欲しいという選び方はしますけど、そこから先は色がカッコいいとか、仕様がカッコいいとか、マッチングヘッドがカッコいいとか、逆にマッチングヘッドじゃないところがカッコいいとか、そういうところがすごく大事だと思います。

 

― 確かにルックスは嫌いだけど、音がいいからって使っている人っていないですよね。

横山 最近のギターのトレンドは把握していないですけど、とにかく見た目が強烈でカッコいいギターを作りたかった。それを横山健のシグネイチャーモデルということで胸を張って、少し照れながら提供したかったんです。

 

― その他、こだわったことはありますか?

横山 このモデルに限らず、グレッチのギターを弾く時に絶対に欠かせないパーツがあって、トーンスイッチを必ず搭載したいと伝えました。ブライアン・セッツァーさんはこのトーンスイッチが嫌いで、外して、中に落としちゃっているくらいなんですけど、なぜ僕は必要かというと、トーンスイッチが真ん中に入っているとトーンが100なんです。下に入れると高音がちょっと削れる。で、上に入れると高音がすごく削れる。これ、数値で誰も表していないんですけど、トーンを少し削ると、僕は全体にコンプが掛かって、歪みが乗りやすく感じるんです。なので、すごく歪ませた音を出したい時は、このスイッチがマストなんです。ちょっとポットを絞ればいいじゃないかと言う人もいると思うんですけど、ポットとスイッチでは効果が違うんです。それで、セッツァーさんが嫌いなスイッチを使うようにしています(笑)。トーンを全開にしておくのがいいというのが普通の考え方だと思うんですけど、そうすると音が散って、うまく歪みが乗ってくれないんですよ。

 

― 他のギターと比べて、Kenny Falcon IIにはどんな特徴がありますか?

横山 実は今回、ピックアップはTVジョーンズさんが僕用に作ってくれたTV Jones® Kenny’Tronを搭載しているんです。以前からTVジョーンズさんがKenのサウンドに触発されたと言って、ピックアップのプロトタイプを送ってくれていたんですよ。そのやり取りの中で、もっと歪むやつが欲しいとリクエストして、今回、高出力で歪みが乗りやすいものを新たに作ってくれました。それをTV Jones Kenny’Tronと命名して載せているので、Kenny Falcon、Kenny Falcon Jr.にも高出力のピックアップを載せていましたけど、それよりも歪みに対応していると思います。ただ、センターにTV Jones TV Classic Plus、フロントにTV Jones TV Classicが載っているので出力はちょっと高いですけど、伝統的なグレッチサウンドが鳴る仕様にはなっています。

 

― ステージでのハウリングはどのようにケアしていますか?

横山 僕は逆にハウリングが好きなので、弾き始めてから気になったことはないです。練習スタジオだと多少気にすることもあるけど、ライヴだとそれなりにスペースが稼げるので、ハウリングに悩まされることはないですね。たぶん立ち位置とか、体の向きとか、自然に何かやっているんだとは思いますけど、マスターボリュームを絞ればハウッていても切れるので。レコーディングではさすがに気にしますけど、ライヴの時、みんな気にしすぎなんじゃないかな。ハウりってカッコいいのにって思います。

 

Kenny Falcon IIについて、他のアーティストからはどんな反応が?

横山 特に何か言ってもらったわけではないですけど、無言で“すごいの持ってんな”っていうのは伝わってきますね(笑)。だって、やっぱりすごいじゃないですか。ラメラメで、ピックアップが3つ付いていて、でかくて。まだ市販されていないから、そこがちょっと照れにつながるところではあったんですけど、やっぱりステージで持っているとイケてる気分にはなります。“俺、すごいギターを持ってるでしょ!すごいギターを弾いているでしょ!これ、俺のモデルなんだよ!”って気分になっちゃいますね。

 

― 開発に2年掛けただけあって、大満足できるシグネイチャーモデルができた、と。

横山 自分の看板モデルというか、横山健はこれだよと表現するギターが欲しかったし、必要だと思ったから新たに作ろうと思ったんですけど、それに遜色ない、遜色ないというか、“これってすごくない?”って自慢できるギターができたと思います。

 

― どんなギタリストに使ってもらいたいですか?

横山 興味があるなら、あらゆるギタリストに使ってもらいたいです。それこそロカビリープレイヤーにも試してもらいたいですし、僕みたいに思いっきり歪ませて使う人にも使ってもらいたいですし、そのポテンシャルはあると思うんですね。

 

Kenny Falcon IIを弾こうと考えている人にアドバイスするとしたら?

横山 繰り返しになっちゃいますけど、ソリッドよりも当然ハウりやすい。でも、気にするな。ロングスケールの大きなギターなので、気になる人もいるかもしれない。でも、それも気にするな。そんなに自分にアジャストしたものを弾いてどうする? そのうちに慣れるから気にするな。正直、僕も初めて17インチ幅のロングスケールのFalconを持った時は、でかいし、ネックは長いし、弾きづらかったんです。でも、たった数回の練習で慣れました。それよりもプロダクトの魅力が勝って、ステージでも使いたいと思いました。僕みたいなギタリストがFalconを弾いていたら、みんなびっくりするだろうってワクワクしたんですよ。

 


 

横山健

1969年、東京都出身。1991年、Hi-STANDARDを結成。1999年にレーベル「PIZZA OF DEATH RECORDS」を設立、社長を務める。Hi-STANDARD活動休止後の2004年には、アルバム『The Cost Of My Freedom』でKen Yokoyamaとしてバンド活動を開始。その後2005年に『Nothin’ But Sausage』、2007年に『Third Time’s A Charm』をリリース。2008年1月13日、日本武道館で行われたライヴ〈DEAD AT BUDOKAN〉のチケットは即日完売。2010年に『FOUR』をリリース。2011年3月11日の震災を期に、Ken Bandを率いて東北でフリーライヴ等を積極的に敢行。9月18日にロック・フェスHi-STANDARD主催〈AIR JAM 2011〉を横浜スタジアムで開催。11年 ぶりにHi-STANDARDの活動を再開させ、2012年には横浜での収益を基に念願の東北で〈AIRJAM 2012〉を開催。11月にはソロとして5枚目のアルバム『Best Wishes』をリリース。

2015年、Gretsch Guitarの132年の歴史において、初の日本人ギタリストのシグネイチャーモデル「Kenny Falcon」が発売。2016 年 3月、自身2度目となる日本武道館公演〈Dead At Budokan Returns〉を開催。2021年5月26日には、Ken Yokoyama名義で7枚目となるアルバム『4Wheels 9Lives』をリリース。2023年9月20日にシングル『My One Wish』をリリース。自身の主宰するレーベル『PIZZA OF DEATH RECORDS』でも精力的に活動し、これまでにWANIMA、HAWAIIAN6、DRADNATS、GARLICBOYS、MEANING、SLANG、SAND、SNUFF等の国内外のバンドを輩出。音楽シーンにおいて常に第一線で活躍している。

https://kenyokoyama.com