横山健 SPECIAL INTERVIEW -後編-
10月 3, 2023
ギターで何をどう表現するのも自由だし、ルールなんてまったくない。すごく無責任で面白い世界が待っています
メロディックパンクムーブメントを牽引するだけにとどまらず、多くの若者にバンドサウドの魅力を伝え、楽器を手に取らせるきっかけも作ったHi-STANDARDのギター&コーラスとして、そして、自身のバンドKen Yokoyamaのギター&ヴォーカルとしてロックシーンの最前線で活躍し続ける横山健。グレッチ初の日本人アーティストとして、これまで3本のシグネイチャーモデルを作ってきたその横山が、このたび7年ぶりに新しいシグネイチャーモデル「G6136T Kenny Falcon™️ II with String-Thru Bigsby®️」を発表。それを記念するスペシャルインタビューの後編では、Hi-STANDARDも含め、以前にも増して精力的になってきた現在の活動について話を聞いた。
「My One Wish」はもう、あぁ横山健だなと思ってもらえるような楽曲
― この記事が出る頃は、9月20日にリリースしたシングル『My One Wish』をひっさげ、東名阪のホールを回る〈My One Wish Tour〉の真っ最中だと思います。『My One Wish』は『Better Left Unsaid』に続くシングルシリーズの第2弾ですが、シングルシリーズを始めた、そもそものきっかけはどんなことだったんですか?
横山健(以下:横山) 端的に言うと、音楽の聴かれ方が昔とは変わったから、僕らもちょっと違うことをやってみようというのがそもそものきっかけです。僕はCDとかLPとかで育った世代ですから、自分のことをアルバムアーティストだと思っていたんです。2年掛けて12曲とか15曲とか作って、ボンと出す。そして、聴いてくれる人もその12曲とか15曲を全曲聴いてくれる。そういったタイプのアーティストであると思っていたんですけど、サブスクが主流の今は、バイキング料理のようにそれぞれが好きなものを好きなだけ摘まむという聴かれ方になっている。それはこっちの熱量に合わないんですよ。こっちが2年掛けて15曲作ってドーンと出しても、いや、欲しいのは1曲だけだからって。それは見逃しちゃいけない事実なんじゃないかと思いまして、だったらシングルをリリースしたほうが出目は多いぞと考えたんです。たとえ2曲入りだろうと3曲入りだろうと、1曲はリードトラックとして聴いてもらえる可能性が増えるわけですからね。それがシングルシリーズの発想です。ただ、やっぱり自分はアルバムアーティストであるということは変わらないと思うので、アルバム中心に活動していきますけど、ちょっとこういうことをやってみたらどういった手応えが得られるのか、そんな気持ちでやってみました。
― どんな手応えが得られましたか?
横山 まだ検証はできていないですけど、毎回毎回のシングルに合わせて、新曲ですってライヴで放り込めるし、やれることは増えましたね。こうやって取材の場でお話する機会も増えましたし。だから、間違っていないとは思います。あとは、聴かれ方がどうなるか検証ができれば。検証って言うと、何か学問か研究しているみたいですけど、僕は古いタイプのミュージシャンなので、そんなことは見て見ぬふりすればできるんですけど、何となく自分の作った楽曲とか、それに注ぐ自分の情熱とかが可哀そうになってきて。だからって、もはや“サブスクF◯ckとも言えないわけで。そんなことを言うほうが負けというか、勝ち負けはないかもしれないですけど、そういうことを言うほうがみじめかもしれない。それで、柄にもないことをちょっとやってみました。
― タイトル曲の「My One Wish」はメロディックパンクの疾走感とメロディメイキングの円熟味が一つに合わさった本当にいい曲だと思うのですが、その「My One Wish」とカップリングの「Time Waits For No One」「Tomorrow」において、横山さんが考える聴きどころを聞かせてください。
横山 「My One Wish」はもう、あぁ横山健だなと思ってもらえるような楽曲だと思います。きっと、今まで僕のバンドが好きで聴いてくれてた人は、スッと好きになってくれる曲で、僕もすごく好きです。聴きどころは「My One Wish」というたった一つの願いという曲なのに、願い事が5個も6個も歌詞の中に入っているところです(笑)。この曲はリハーサルのスタジオでもよくやるんですけど、すごく楽しいですね。歌っていて、気分がいいです。
― 「Time Waits For No One」はハードロッキンなリフで聴かせる曲ですね。
横山 確かにリフの作り方は、僕らにしてはちょっとハードですね。この曲は楽曲というよりも、自分にとっては歌詞が大事なのかな。僕や僕のバンドメンバーの子供世代のことをものすごく考えていた時期に書いた歌詞なんです。当たり前のことですけど、時間は誰のことも待ってくれないよっていうのは、この歳になって、子どもたちに改めてちゃんと言って聞かせたいことですね。
― それは時間を無駄にしたことがあるという後悔があるからこそですか?
横山 そうですね。もっと若い時にこれやっておけばよかったって思うことがありますからね。例えばギターにしても、もっと10代の時にちゃんと基礎練やっとくんだったみたいな後悔って、日常ごろごろ転がっているんですよ。誰の人生にもあると思うんですけど、でもまぁ時間は平等に過ぎていくし、痛い目に遭うのも自分だよ、後悔するのも自分だよってことを、今の10代の子とか、10歳にもならない子とかに言うって、僕らの世代の社会的な役目でもありますよね。その役目を果たそうと思って作ったわけでなくて、結果的にそうなっただけなんですけど、自分の子どもたちにも日常的に言いたいことですね。後悔しない人はいないし、毎日フルで時間を建設的に使える人なんていないですから、永遠の課題ですけど、言うのと言わないのとでは全然違うし、逆に子どもたちも言われるのと言われないのとでは違うと思うんですよ。
Fコードなんて弾けなくたっていいんですよ
― この曲を作る時、ロックンロールの楽しさも意識したそうですね?
横山 はい。この楽曲は自分のマナーではなく、ロックンロールのマナーに沿って書いた曲なので、そこは演奏していて楽しいところです。
― コーラスはローリング・ストーンズの「ブラウン・シュガー」を意識されたそうですが、ストーンズはけっこう聴いているんですか?
横山 アルバムは『エモーショナル・レスキュー』以外、全部持っています。あれだけなぜか持ってないんです。かなり若い時に勉強だと思って、クラシックロックを聴いたらハマっちゃって。ストーンズ、レッド・ツェッペリン、AC/DC、ラモーンズ、モーターヘッド、もちろんビートルズ、ビーチ・ボーイズも全部聴きました。そして、全部好きになっちゃいました。その経験がギタリストでありながら、ギターじゃない発想ができる源になっているんです。例えば、ホーンセクションが入っている曲のこの雰囲気を出したい。でも、僕が21歳の時に組んだHi-STANDARD(以下:ハイスタ)は3ピースだったので、楽器3つしかないじゃないですか。しかも、ウワモノは僕だけ。どうやってホーンセクションを表現しようかってところで、けっこう試行錯誤したんです。そういうことが自分のギタースタイルを作る上で役立ったし、楽しかった。こういうブルースフィーリングをメロディアスなものに持ち込んだらどうなるんだろうとか、いろいろなトライができました。それはクラシックロックを聴いたおかげです。その中で一番好きだったのはクリームです。
― えっ、クリームですか!? ちょっと意外です。
横山 以前はエリック・クラプトンと同じくらいギターを弾けると思ってました。ここ10年で違うんだって気づきましたけどね(笑)。クリームの「クロスロード」は完コピしましたよ。いまだに手癖で弾きますね。だから「ブラウン・シュガー」のエッセンスみたいなものが、意識しなくてもふっと出てくるんですよ。曲ができてから考えてみたら、これ「ブラウン・シュガー」みたいだねって気づきました。
― さて、ミュージカル『ANNIE/アニー』のテーマソングをメロディックパンク調にカヴァーした「Tomorrow」は、木村カエラさんをゲストに迎えています。
横山 これはもうカエラさんのヴォーカルを聴いてもらえれば大丈夫です(笑)。クラシックロックという意味では、最後にクイーンっぽいアレンジが出てくるんです。あれもスタジオで、こうやったらブライアン・メイっぽくなるねっていうのをそのまま使っちゃったんです。案外しつこくなくていいなと思いました。
― 〈My One Wish Tour〉以降の活動プランは、どんなふうに考えていますか?
横山 シングルをもう1枚出して、来年、アルバムを出します。実は3枚目のシングルがアルバムのリードトラックになるんです。その曲がすごくいいんですよ。その曲にひっぱっていってもらって、今まで見えてなかった景色が見えるのかな。その曲にどこか連れて行ってもらえないかという期待はしています。アルバムもすごくいいものになりそうな予感があります。8枚目なんですけど、今までこういうアルバムってなかったなって自分たちでも思えるんですよ。それをひっさげて、ライヴするのが楽しみです。
― 同時にハイスタも動いていますが、新たにドラマーが決まったとして、例えばゲリラ的にというか、何の前触れもなく急に動き出すなんてこともあるのでしょうか?
横山 それはすごくあります。ハイスタは何をするかわからないので(笑)。もしドラマーが決まって、それもいつになるかわからないし、もしかしたら今回のオーディションでは決まらないかもしれないですけど、決まったら、何をするのかなって自分でもワクワクしますね。新曲を作ろうってなるのか、1本ツアーを回ってみようよってなるのか。1本ツアーを回るにはスケジュールを組んで、それまで時間があるじゃないですか。それまでにゲリラライヴをやろうとか、何でも可能性はありますね。
以前は、ハイスタとKEN BANDの活動はきっちり分けたかったんです。そうしないと節操ないし、自分も嫌だったんです。でも、この歳になっていつまでできるんだろう?って当たり前の疑問も出てきて。当然、30歳の時よりも残された時間も少ないわけですよね。だったら、そんなに物事、計画的に行かなくてもいいじゃんって思いも出てきました。今日はKEN BANDのライヴをやって、来週はハイスタのツアーがあるんだよねって、それくらい節操なくてもいいんじゃないないかな。なので、何するかわからないです(笑)。
― 今日はありがとうございました。最後に、ギター初心者にメッセージをお願いします。
横山 そうだな。生まれながらにまったくギターと肌が合わない人もいると思うんですよ。そういう人はさておき、ちょっとでも興味があったら弾いてごらんって思います。Fコードなんて弾けなくたっていいんですよ。1年やっていれば、弾けるようになります。僕自身がそうでした。理屈がわからないまま、タブ譜を見ながら半年間、同じフレーズを弾いていたんです。そしたら半年後、こんなことができるってやれることが増えていたんです。すぐに上手くなろうとせずと言ったら変だけど、一生懸命やる子は一生懸命やって、どんどん上手くなっていってほしいけど、何もできなくていいから、ちょっとでも楽しいと思ったら続けてほしいですね。一通りできるようになったら、何をどう表現するのも自由だし、ルールなんてまったくないので、すごく無責任で面白い世界が待っています。たくさんの人にギターを弾いてもらいたいと僕は思います。
横山健
1969年、東京都出身。1991年、Hi-STANDARDを結成。1999年にレーベル「PIZZA OF DEATH RECORDS」を設立、社長を務める。Hi-STANDARD活動休止後の2004年には、アルバム『The Cost Of My Freedom』でKen Yokoyamaとしてバンド活動を開始。その後2005年に『Nothin’ But Sausage』、2007年に『Third Time’s A Charm』をリリース。2008年1月13日、日本武道館で行われたライヴ〈DEAD AT BUDOKAN〉のチケットは即日完売。2010年に『FOUR』をリリース。2011年3月11日の震災を期に、Ken Bandを率いて東北でフリーライヴ等を積極的に敢行。9月18日にロック・フェスHi-STANDARD主催〈AIR JAM 2011〉を横浜スタジアムで開催。11年 ぶりにHi-STANDARDの活動を再開させ、2012年には横浜での収益を基に念願の東北で〈AIRJAM 2012〉を開催。11月にはソロとして5枚目のアルバム『Best Wishes』をリリース。
2015年、Gretsch Guitarの132年の歴史において、初の日本人ギタリストのシグネイチャーモデル「Kenny Falcon」が発売。2016 年 3月、自身2度目となる日本武道館公演〈Dead At Budokan Returns〉を開催。2021年5月26日には、Ken Yokoyama名義で7枚目となるアルバム『4Wheels 9Lives』をリリース。2023年9月20日にシングル『My One Wish』をリリース。自身の主宰するレーベル『PIZZA OF DEATH RECORDS』でも精力的に活動し、これまでにWANIMA、HAWAIIAN6、DRADNATS、GARLICBOYS、MEANING、SLANG、SAND、SNUFF等の国内外のバンドを輩出。音楽シーンにおいて常に第一線で活躍している。