和田唱(TRICERATOPS)SPECIAL INTERVIEW -前編-
1月 9, 2026
気づけば、グレッチだけは一度も手放したことがない
思春期の劣等感と、胸の奥でくすぶる“目立ちたい”という衝動。その出口として和田唱が手にしたのは、1本のエレキギターだった。やがて彼はザ・ビートルズへの憧憬を辿り、グレッチへと辿り着く。音楽に救われ、強さを手にした少年は、いま何を思いギターを抱くのか。インタビューの前編では、ギターを始めたきっかけ、現在使っている3本のグレッチについて語ってもらった。
― ギターを始めたきっかけを教えてください。
和田唱(以下:和田) 僕、ちょっと自信のない少年だったんですよ。心の中では目立ちたい、注目を集めたいとどこかで思ってるんですけど、なかなかそれができなかった。すごく歯がゆい思いをずっとしてたんですよね。何か自分にとって武器となるようなものを、ずっと求めてたんだと思うんですよ。
そんな時、サッカー部で成績もそこそこ良くてルックスも良い“モテる連中”が次々とエレキギターを始めたんです。お弁当の時間にギターのパンフレットを広げて、「これカッコいいよな」なんて言っている。それを見て、普段から彼らに少し嫉妬していた僕は、ますます置いていかれるような気がして悔しくて仕方なかった(笑)。でも同時に、“ギターなら自分にもできるかもしれない”と直感したんです。もともと音楽が大好きで、マイケル・ジャクソンとビートルズに関しては研究者並みに聴いていましたから。コンプレックスと音楽好きという二つが結びついた瞬間でしたね。そこで親に頼み込んで、3万円のギターを買ってもらったのが最初です。そいつらには内緒で(笑)。
― 出し抜こうと思ってこっそりと?
和田 本当にそうです。ただ、どうやって弾けばいいかわからない。最初はつまらないのなんの。ギターを買ってもらったはいいけど、どうすんだよ!みたいな(笑)。アームがついているから、ジャーン!って開放弦を鳴らしてアームでビヨンビヨンしておしまい、みたいな。
― そんな和田少年がグレッチの存在を知ったのはいつぐらいですか?
和田 ずっとあとですよ。ただ僕はビートルズが大好きですから、ジョージが使っていたのはグレッチって言うんだという知識はありました。知識はあったけど、何となく最初の頃はフェンダーとギブソンの伝説っていうか、呪縛みたいなものから抜け出せなかったですね。いつかこの二つのギターを手にするんだって。デビューしてからも結局しばらくそこですよね。で、ある程度レスポールとストラトを弾きこなせるようになってきて、次の段階としてグレッチやリッケンバッカーが気になってくる。で、最初に手にしたグレッチはやっぱり6120です。ブライアン・セッツァーが使っているオレンジのやつですね。僕のはボディが若干薄い1961年モデル。そんな風にして2000年代に入ってすぐ、僕のグレッチの時代がやってくる感じですね。
― 最初に買った6120はどうでしたか?
和田 もちろん肩からぶら下げて、鏡の前でギターと自分を見つめて(笑)。グレッチって、それほど“構えた瞬間の高揚感”が強いギターなんですよ。おしゃれだし、楽器としての存在感が圧倒的ですよね。もちろん弾き心地もすごく良かったですけど、“俺、グレッチを持ってるぜ”という感覚が、自分をもう一段階上の場所へ連れていってくれる、そんな感じ。ずっと大事にしていますね。
― そうですか。
和田 気づけば、グレッチだけは一度も手放したことがない! その6120と、薄いグリーンのDouble Anniversary、そしてTennessean。この3本が僕の持っているグレッチです。他のブランドのギターは、手にして売ってを繰り返したこともありますが、グレッチだけはそれがない。常にそばに置いておきたいギターなんでしょうね。
― グレッチって車で例えると、乗用車じゃないじゃないですか?
和田 確かに。でも、本当は乗用車にしたいんですよ。その憧れがずっと強くて。なんでベンジーさん(浅井健一)みたいにグレッチのイメージでデビューしなかったんだと。それが悔やまれるところなんですよ(笑)。別格にカッコいいじゃないですか、グレッチのイメージって。和田唱と言えばグレッチだろ、みたいな!でもそれはもう遅いので(笑)。
― たしかに。
和田 もしタイムスリップできたら、デビューの頃に戻ってSilver Jetを手にしてデビューしたい! そんな奴、未だに見かけないでしょ。あれを手にしてデビューしたかったですねぇ。トライセラと言えばSilver Jetだよねって。そんなイメージ、めちゃめちゃイカしてただろうなって、未だに憧れちゃいます。
― このインタビュー読んだら、これからSilver Jetを持ってデビューする人が出てくるかもしれないですよ?
和田 嫉妬しちゃいますよ。俺がやりたかったよ! 取りやがったな!って(笑)。

― (笑)。唱さんが所有しているこのTennesseanについて教えてください。
和田 2019年にDuo JetかTennesseanで迷った末、手に入れたのがこの子です。ジョージ・ハリスンも使っていた有名なギターですよね。1964年製です。元はハイロートロンというちょっと出力の弱いピックアップがついていて、ベンジーさんのTennesseanもそう。つまり、ベンジーさんのあの音です。わりとクリーンでシャリシャリしてる。僕はベンジーさんみたいにハイロートロンをカッコよく使いこなせないんです。僕の持っているDouble Anniversaryもハイロートロンなんですけど、6120にも着いているもうちょっと出力の強いフィルタートロンに換えています。で、このTennesseanはダイナソニックっていうJetシリーズについているのと同じ、シングルコイルのピックアップに載せ替えました。しかも50年代の!
― かなりマニアックな改造ですね!
和田 そうなんです。ネットで調べまくったんですけど画像が一つも出てこない。だから、Tennesseanにダイナソニックを載せているギタリストは、世界を見渡しても俺しかいないですね。もしいるなら名乗り出てきてください(笑)。
― ちなみに唱さんはどんな曲、シチュエーションで使うんですか?
和田 やっぱりロックンロールでしょう。あまり歪まないのがいいんですよ。クランチぐらいの感じが。昔は歪んでて音が伸びていないと自信が持てないというか、足りない感じがしちゃってた。特にスリーピースでずっとやってきたから、若い頃は“音の隙間”が怖いんですよ。でも今は隙間が怖くなくなった。この隙間が怖くなくなるかどうかが、大人か子供かの大きな違いなんです(笑)。僕もこの間50歳になりましたし、今はむしろ隙間がないと嫌なぐらい。オリジナルでは歪んでる初期の曲でも、気分を変えたい時はこの子が登場します。
― 他にこのTennesseanに関して自慢のポイントは?
和田 退色しまくった故のこの家具感! 僕の持っているギターの中で一番家具感が強いです。
― 部屋に飾っておくだけで酒が飲めちゃうやつですね。
和田 それなんですよね。部屋に置いておきたくなる。ギターによっては、部屋に置いたらちょっと邪魔になるやつもありますからね(笑)。部屋に置いてても家具とマッチする、無意識でそれが俺のギターを選ぶ基準になってたりして。
― 確かに日常生活とか、自分の気持ちをどうしてくれるかも大事ですよね。
和田 そもそもギターという楽器自体が、僕を強くしてくれるために出会ったものですしね。考えてみれば未だにそうだと思いますね。僕がこれを持ってなかったら、一体何者になっていたんだろう?ってよぎる時があるんですよ。あの時、サッカー部の彼らがギターのパンフレットを広げてなかったら...なんかもう怖いですね。
― 日陰な人生を歩んでるかも?
和田 すごい日陰だと思います(笑)。
― あははは。だから魔法の杖じゃないけど。
和田 完全に魔法の杖...竿です。それが未だに続いていると思うんですよね。だからこそ、ギターへの感謝の気持ちは忘れちゃいけないと常に思います。

Tennessean(本人私物)
和田唱(わだ・しょう)
1975年生まれ。1997年メジャーデビューしたロックバンド、TRICERATOPS(トライセラトップス)のボーカル、ギター。作詞作曲も担当。ポジティブなリリックとリフを基調とした楽曲、良質なメロディセンスとライブで培った圧倒的な演奏力が、幅広い層から大きな評価を集めている。2018年からソロ活動も開始し、これまで『地球 東京僕の部屋』『ALBUM.』『BIRDMAN』と3枚のアルバムを発表し、2025年1月のTRICERATOPS無期限活動休止以降もソロを中心に多彩な活動を繰り広げている。
一昨年上演された「Musicalのだめカンタービレ」の音楽も担当し、他アーティストへの作品提供も多数。
弾き語り2マン自主企画「Two Chairs」、バンドを従えたソロツアー、カバーに特化した「和田唱 SOLO -COVERS-」など単独ライヴも多岐にわたる。2026年2月にはソロライヴ〈和田唱 SOLO -COVERS vol.3-〉を東京、大阪で開催。春にはバンドツアーも予定されている。
