佐々木亮介(a flood of circle)SPECIAL INTERVIEW -前編-
7月 29, 2025
このBroadkasterだったら先輩たちとは違う、俺のギターだって気持ちで弾ける
ファルコンと革ジャンをこよなく愛する佐々木亮介が4年ぶりに再登場。彼が率いるa flood of circleは1年後に迎える結成20周年に向け、精力的に活動を続けている真っ最中だ。インタビューの前編では、佐々木が現在使っている3本のグレッチについて、改めて話を聞かせてもらいつつ、Broadkaster LX Center Block with String-Thru Bigsby and Gold Hardwareを試奏したインプレッションも語ってもらった。
― 2021年のインタビューではグレッチのギターを4本所有しているとおっしゃっていましたね。
佐々木亮介(以下:佐々木) アメリカで買ったStreamline Collectionは、2022年に代々木公園野外音楽堂でフリーライヴを開催した時のクラウドファンディングのリターンにしちゃったんですよ。今はファンの方が弾いているはずです。だから、今はBlack FalconとWhite Falconと紫色のブライアン・セッツァーモデル(G6120T-HR Brian Setzer Signature Hot Rod Hollow Body with Bigsby)の3本ですね。
― その3本の特徴や、どんなふうに使い分けているのか改めて教えてもらってもいいですか?
佐々木 使い分けか。一番はっきりしているのは、THE KEBABSの時に使っているブライアン・セッツァーモデルですね。俺、最近、ロックとかパンク問題ですごく悩んでいるんです。ロックってやっぱり燃え尽きるぞっていうくらいの気合でやらないといけないと思うんですけど、長生きしていくと、段々と肩を組んでいくしかなくなってくるというか、人生つらいけど、仲良くやっていこうみたいなことしか言えなくなってきて、中指を突き立てることが難しくなってくるんですよ。もちろん突き立てている時間帯もあるんですけど、家に帰ったらみんな明日のことを考えて寝てるよねみたいな。バンドではあるけど、これってロックなのかっていう。もっとも、そんなの燃え尽きる勇気がないかぎり解決できないから、明日のことも考えながら生きていくしかないんですけど、せめてその緩い時間まで見せることで、どうにかお許しいただけませんかっていうのがTHE KEBABSなんですよ。俺にとっては。だから、ブライアン・セッツァーモデルもできるだけかわいくあってほしいと思って、ステッカーをいろいろ貼ったりしているんです。
― じゃあ、ブライアン・セッツァーモデルの音色がTHE KEBABSのサウンドに合っているとかではなく?
佐々木 そうなんですよ。セッツァーさん、すみません(笑)。完全に後から入ってますからね。Black Falconは逆にもっとヘヴィな気持ちというか。メンバーが失踪した直後に買ったんです。その時はまだバイトもしていて、もっと燃え尽きる覚悟があったからありったけの金で買った感じで。それも含め思い出が一番あるんです。ある日、すっごいムカついた日があったんですよね。それでLINE CUBE SHIBUYAでライヴをした時、放り投げて壊しちゃったんですよ。そしたら、いつも応援してくれているグレッチギターを作っている人が“もっと大事にしなさい”って。俺としては真心を込めて壊したつもりだったんですけど、“でも、君はこのギターじゃないか”って、その3ヶ月後に代々木公園でやるフリーライヴに間に合うように直してくれたんです。買った時もすごく気持ちが入っていたし、壊れた時も気持ちが入っていたんですけど、元鞘みたいな感じで帰ってきちゃったから、それからはなるべくこれを弾こうって、今も弾いているんですけど。
― 佐々木さんのWhite Falconは日本で作られたものなんですね?
佐々木 そうです。日本でグレッチを作り始めた時で、俺が楽器屋に行ったらちょうどセミアコースティック型のやつが出てたんですよ。Black Falconは先輩たちが弾いているから、どうしてもその影があるっていうか、そのジレンマがあったから、同じグレッチでもこれはまだ誰も弾いていないと思って買ったんです。そしたら、たまたまですけどWhite Falconを買った日にザ・ルースターズの大江慎也さんの55歳の誕生日ライヴがあって、大江さんと復活前のNUMBER GIRLのリズム隊と買ったばかりのWhite Falconで演奏させてもらったんです。しかも、奈良美智さんが見に来ていて、酔っぱらった勢いでというか、酔っぱらったふりしてWhite Falconにサインしてもらったんですけど、その10年後に『花降る空に不滅の歌を』ってアルバムのジャケットを描いてもらうことになるという、White Falconもけっこういろいろな思い出があるんですよ。だから、紫のあいつ(ブライアン・セッツァーモデル)には悪いんですけど、Black FalconとWhite Falconに対する気持ちとはちょっと違うというか。正直者でしょ? 3本とも大事って言わないところが(笑)。だから、その二つはここぞっていうところで弾いている感じですかね。

― さて、そんな佐々木さんに今回はBroadkaster LX Center Block with String-Thru Bigsby and Gold Hardware(以下:Broadkaster)を試奏していただきました。ここからはそのインプレッションを聞かせていただきたいのですが。このBroadkasterは6月に発売されたばかりの最新モデルで、佐々木さんに試奏していただいたダブルカッタウェイのモデルに加え、シングルカッタウェイも2色あるそうです。特徴としては、これまでスプルース材だけだったセンターブロックがメイプルと組み合わせたものになっていたり、ピックアップにハムバッカーを搭載していたり、ビグスビーもストリングスルータイプになっていたりと、かなりモダンな仕様に振り振り切って、チューニングが安定しない、音量が小さいと言われがちなグレッチの問題点を解消した上で現代的なロックでも使えるギターになっているそうです。実際に弾いてみていかがでしたか?
佐々木 おっしゃる通りだと思いました。すごくちゃんとしている。自分が使っているBlack FalconもWhite Falconもいっぱい弾いてきたからか、チューニングがすぐに狂うんですよ。俺はそれをかわいさと呼んでいるんですけど、チューニングが安定するのは実用的ですよね。音もミッドにパンチがある。
― ダブルカッタウェイに関しては、実はボディの形も変わっていて、よりえぐれているというか手が届くようになっていて、ハイフレットが弾きやすくなっているんですよ。
佐々木 確かに。まさにBlack Falconってハイフレットが超弾きにくい。それももちろんかわいさと呼んでますけど(笑)、White Falconを買った時、ハイフレットが弾きやすそうっていう理由もあったんですよ。これはさらにえぐれているからソロも全然いけそうですね。
― でも、Black FalconやWhite Falconに比べて扱いやすいぶん、かわいさが足りないのでは(笑)?
佐々木 でも、それは付き合っているうちにというか、俺、斉藤和義さんの「君の顔が好きだ」って歌が好きなんですよ。《君の顔が好きだ 君の髪が好きだ 性格なんてものは僕の頭で 勝手に作り上げりゃいい》っていう。だから、やっぱり顔ですよね、大事なのは。顔が好きだと思ったら、いい性格に思えてくるから好きになるんじゃないかな。
― やっぱりこの形のギターが好きだ、と。
佐々木 一番カッコいいですよね、グレッチは。扱いづらさからグレッチを敬遠している人は、顔も良くて仕事もできるこのギターから弾いてみたらいいんじゃないかな。
― 佐々木さんはどんな場面で使いたいですか?
佐々木 ソロが弾きやすそうだから、やっぱりレコーディングかな。
― Black Falcon、White Falconと比べて、音の違いはいかがですか?
佐々木 前のグレッチって音がボフボフしているんですよ。空気感が多いっていうのかな。それを減らそうとして、たぶんWhite Falconを作ったんじゃないかと思うんですけど、それよりもさらにソリッドですよね。それはピックアップの違いなのかな。だから、俺みたいにグレッチも持っている人はいいかもしれないですね。過去のグレッチと違う音が出るから。1本目で音がボフボフしているのがちょっとな…って思った人は、これを試したらいいかもしれない。
― これまでのグレッチとは一味違うという印象もありますか?
佐々木 そうですね。だからグレッチを使いながら、でも結局はベンジーさん(浅井健一)だよねって思っている人って俺も含め多いと思うんですけど、俺がWhite Falconを買ったように、このBroadkasterだったら先輩たちとは違う、俺のギターだって気持ちで弾けるんじゃないかな。

Broadkaster LX Center Block with String-Thru Bigsby and Gold Hardware
佐々木亮介(a flood of circle)
1986年、東京都出身。2006年、a flood of circleを結成。メンバーは、佐々木亮介(Vo, Gt)、渡邊一丘(Dr)、 HISAYO(Ba)、アオキテツ(Gt)。2021年、バンド史上初となるホールワンマンをLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)にて開催。同年10月に代々木公園野外音楽堂にて入場無料ライヴ〈I'M FREE 2022〉を開催。2023年2月に12枚目のフルアルバム『花降る空に不滅の歌を』をリリース。2023年9月にホリエアツシ(ストレイテナー)プロデュース「ゴールド・ディガーズ」をリリース。2024年3月に後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)プロデュース曲「キャンドルソング」が収録されたEP『CANDLE SONGS』をリリース。全国ツアー〈CANDLE SONGS -日比谷野外大音楽堂への道-〉を4月よりスタートさせ、8月12日に10年ぶりとなる日比谷野外大音楽堂にてワンマン公演を開催。チケットはソールドアウト。2024年11月にフルアルバム『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』をリリース、全国37公演のツアーを敢行。ツアーセミファイナルのZepp DiverCity公演では、今秋ニューアルバムをリリースすること、そして2025年11月9日(日)新宿歌舞伎町にてリリース記念フリーライヴを開催することを発表。
